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Inkscapeバージョン1.3の新機能

 このページでは、2023年7月にリリースされたInkscapeバージョン1.3で追加された新機能について詳しく紹介します。

   (参考:Inkscapeでできること

   (参考:バージョン1.3.2の変更点

   (参考:バージョン1.2の新機能

(2024.07.22更新)

はじめに

 バージョン1.3では2022年5月のバージョン1.2からまたもや数多くの改良がなされているようです。Inkscapeのリリースノートを読むだけでも大変そうなので、めったに使わない(と直感的に思う)機能は後日詳しく読むことにして、重要と思われる改良点を以下にまとめようと思います。

 ここではどんな機能なのかさっと読んですぐ分かる程度の概要を一覧しておいて、さらに詳しい使い方は別のページにリンクしていきます。

 また、これまでこの「Inkscape覚え書き」の中にまとめてきた古いバージョンについてのメモにもこれらの改良点に関する情報を適宜反映していこうと思います。

ざっくりとした印象

 まずバージョン1.3全体のざっくりとした印象ですが、機能の根本的な部分の変更はないので、Inkscapeバージョン1.2の使い方を押さえておけばあとはInkscapeバージョン1.3を使ってるうちに自然に「あれ?いつのまにかこんな操作もできるようになっていたのね?」と気づいていけば十分なんじゃないかといった感じで、迷子になってしまうほど機能が変化したり画面が変化したりしているものではなさそうでした。

 なお、以下で列挙する新機能の順番はリリースノートの記載順(何の順かわかりませんが)ではなく、個人的に注目すべきだと思う順に並び替えてみました。

新しい機能ごとの概要

○ シェイプビルダーツール

 互いに交差する(重なり合う)複数のパスやシェイプの重なっている部分を選択すると、そこを囲うストロークを切り取ってつなぎ合わせて新しいパスを作ってくれるツールです。

 複数の交差するパス/シェイプを選択しておいてからこのツールを選ぶと、選択してあるオブジェクト群だけが表示される特殊な編集モードになり、重なっている部分のいずれかを指定するとその部分を囲う形のパスを生成してくれます。(独自のシェイプとしてInkscapeに登録できるという機能ではありません)

 シェイプの一部だけ切り取って組み合わせるようなパスを描きたいときに便利です。

   (詳細:シェイプビルダツール

○ フォントコレクション

 フォントコレクションと呼ばれるフォントのグループを作って、フォントを選ぶ操作を効率よくすることができます。

 フォントコレクションというダイアログを表示して「+」ボタンを押すと新しいフォントコレクション(フォルダのようなもの)を右側の一覧に追加することができます。さらに左側のフォント一覧から好きなフォントをその上にドラッグすると、そのコレクションにフォントを追加することができます。フォントを選ぶときにまずフォントコレクションを選ぶことで、フォント一覧に表示されるフォントを絞り込むことができます。

   (詳細:文字のフォントを設定する

ただし、日本語名のコレクションを新規追加することや、日本語名のフォントをコレクションに追加することはできないようです。バグ?

○ オブジェクトのドラッグに合わせてスクロール

 オブジェクトをドラッグしてキャンバスの端に持っていくと、そのドラッグに合わせてキャンバスが自動的にスクロールします。

○ 塗りつぶしパターンの機能大幅アップ

 組み込みパターンも増えて、パターンの種類によって分類されておりメニューで絞り込むことが可能になりました。

 ダイアログ上でパターンを拡縮、回転、色変更することも可能に。

  (詳細:パターンを使って塗りつぶす

○ 塗りつぶしパターンの変形

 ノードツールを選択するか、または「キャンバス上で編集」ボタンを押すと、パターンをキャンバス上で移動/変形するためのハンドルが表示されます。この機能はバージョン1.2以前もありましたが、バージョン1.2まではこのハンドルの表示位置が分かりにくいことがありました。バージョン1.3では選択しているオブジェクトの近くに表示されるようになりました。

  (詳細:パターンを使って塗りつぶす

○ ぼかしをキャンバス上で調整可能に

 ぼかしの入ったオブジェクトをノードツールで選択すると、通常のノードの他に縦横方向のぼかしの大きさ(範囲)をキャンバス上で変更するためのノードも表示されます。

  (詳細:「ぼかし」機能のあれこれ

○ フィルタエディタのデザイン一新

 フィルタエディタのレイアウトやメニューの形式が使いやすくなりました。

 また、画像(feImage)とタイル(feTile)の2つのフィルタプリミティブ要素に対して指定可能なパラメータも追加されました。

  (詳細:フィルタとは何か

○ カラーパレット

 どの色が選択中のオブジェクトのストロークの色で、どの色が選択中のオブジェクトのフィルの色であるかが分かるようにマークを表示するようになりました。

 また、良く使う色はパレットの一番端に少し大き目の色見本として登録できるようになりました。

○ 色の選択

 RGBやHSLに加えて「OKHSL」という色空間からの選択が可能に。(ただしデフォルトでは無効になっているので環境設定で有効に切り換える必要あり)

○ クリッピングした画像のデータサイズを小さく

 クリッピングした画像の上で右クリックして「クリップする画像をクロップ」というメニューを操作すると、クリッピング領域に合わせてドキュメント内の画像データを切り取ってくれるので、保存後のSVGファイルが小さくなります。埋め込みではなくリンクでインポートしている画像の場合はクロップした上で埋め込み画像に自動的に切り替わります。

○ ページごとの左上隅を原点に

 選択中のページの左上隅が原点に。環境設定で常に1ページ目の左上隅にするように変更できます。

○ スタイルの貼り付けをCSSのルールのままで

 コピー元のオブジェクトのスタイルシートのルールに従って決定されたスタイルの「値」を貼り付ける(ペーストする)のではなく、スタイルのルールそのものを貼り付けるように環境設定で切り替え可能。

○ 選択中のページの同じ位置に貼り付け

 あるページ上でコピーされたオブジェクトを、現在選択中の別のページの同じ位置に貼り付けます。

○ ルーラにページ位置と選択オブジェクト位置を表示

 キャンバスの端に縦横に表示されるルーラの上に、現在選択中のページとオブジェクトがどの範囲に存在するのかを示す色(またはマーク)を表示します。

○ ルーラの目盛の単位を直接変更可

 ルーラ上で右クリックすると目盛の単位を変更できます。

○ スナップバーのモードが追加

 簡易スナッピングモードと上級者用モードの他に、バージョン1.1以前の「表示しっぱなしのスナップバーモード」が復活しました。

 この「スナップバーモード」は、上級者用モードと同じオプションを指定できるボタンやチェックボックスが並んだものです。

  (詳細:スナップ機能(ドラッグ時の位置合わせ)

○ 一時的な表示モード

 「F」を押し続けている間は選択ハンドルなどが非表示になります。

 「Q」を押し続けている間はズームされた状態になります(キャンバス一杯に拡大されます)。

○ ページ枠の外側を非表示に

 ドキュメントのプロパティで「ページにクリップ」にチェックを入れると、キャンバスのページ枠の外側は非表示になります。

○ ツールのアイコン上で右クリック

 右クリックすると環境設定のツール設定画面を表示できます。

○ グラデーションの繰り返しの一斉変更

 複数のオブジェクトを選択してグラデーションツールを使ったときに、ツールバーでグラデーションの繰り返しの種類を一括して変更することができます。

○ パスの複数のノードを同時に選択

 パスの複数のノードを同時に選択するには、シフトキーを押しながら追加選択しなければならなかったところ、Altキーを押しながらドラッグすれば囲ったノード(始点と終点をつないだ閉曲線の内側に囲われたノード)が同時に選択されるようになりました。

  (詳細:パスのノードを選択する

○ パスのノードをカーブを維持して削除

 ノードツールでノードを選んで削除したときに、そのノードのところの曲がり具合を維持したまま削除されるようになりました。(角のノードの場合はCtrlキーを押しながら削除すると、その角のところで曲がる曲線になる)

○ 角エフェクト(LPE)をボタンで適用

 ノードツールで選択しているときにツールコントロールバーに「角エフェクトを適用するボタン」があります。それをクリックすると角エフェクトが適用されて角の大きさを調整するハンドルが表示されます。当然、パスエフェクトダイアログ上から角エフェクトの他のパラメータを指定することもできるようになります。

  (詳細:パスを作成/編集

○ ページの印刷領域の指定

 キャンバス上のページ枠に対して、何も描かない余白(マージン)と印刷する紙よりも少し大きめに描く塗り足し(ブリード)の幅を指定することが可能に。これらはオブジェクトのスナップの対象にも追加されました。

  (詳細:ページのマージンと塗り足し

○ ドラッグしながらクローン

 オブジェクトをドラッグしながらスペースキーを押すと、押したときの位置に次々にコピーを生成するという従来の機能と同様に、ドラッグしながら「C」を押すと、その位置にクローンを生成してくれます。

○ テキストのパス化

 以前のバージョンではオブジェクトをパスへメニューでテキストオブジェクトをパスに変換すると1文字1パスのオブジェクトグループに変換されていましたが、バージョン1.3では1文字1サブパスの結合パスに変換されるようになりました。

○ 重なったパスをまとめて変換

 複数のパスが重なっている状態で、アウトラインの位置で互いをバラバラに切り分ける機能(Fracture)、重なっていない部分(見えている部分)だけを残すように重なっている部分(見えない部分)を取り除いた形に変形する機能(Flatten)が追加されました。

 Fractureは「破砕」という意味らしいですが、Inkscapeのメニューでは「分割」と表示されます。

 Flattenは「展開する」という意味らしいですが、Inkscapeのメニューでは「パスに戻す」と表示されます。(詳しくは「「Flatten」と呼ばれる機能について」を)

  (詳細:パスをつなぎ合わせる/切り離す

○ クローンを非クローンに

 パスではない(例えばシェイプ)オブジェクトをクローン元とするクローンオブジェクトを選択して、オブジェクトをパスへメニューを操作した場合、以前のバージョンではクローンオブジェクトがクローンではない単独のオブジェクトになった上で、さらにパスオブジェクトに変換されていましたが、バージョン1.3では単独のオブジェクトになるだけで、パスへの変換は行われない(シェイプであればシェイプのままを維持する)ようになりました。

 環境設定で以前のバージョンと同じ動作に変えることもできます。

○ クリップ/マスクしたオブジェクトグループの解除

 オブジェクトグループに対してクリッピング/マスキングを適用した状態でグループを解除すると、以前のバージョンではクリッピング/マスキングも同時に解除されていましたが、バージョン1.3ではグループ解除でバラバラになった各オブジェクトに引き継がれるようになりました。

 環境設定で以前のバージョンと同じ動作に変えることもできます。

○ 指定したページだけPDF1ファイルに保存可能

 エクスポートダイアログで指定した複数のページを1つのPDFファイルに保存することが可能に。(以前のバージョンではどうなっていたのかは失念)

○ レイヤダイアログの改良

 レイヤダイアログ上でドラッグや複数選択することで、まとめて表示/非表示やロックの切り替えを行うことが可能に。

 また、レイヤダイアログ上の小さい四角のアイコンをクリックすると不透明度とブレンドモードを変更できる画面が表示されるようになりました。

  (詳細:「レイヤーとオブジェクト」ダイアログ

○ パスエフェクトダイアログの改良

 エフェクトの選択画面が改良されました。

 エフェクト共通設定とエフェクト個別設定の画面も整理されました。

 なお、以前のバージョンのエフェクト一覧画面は通常は表示されなくなりましたが、環境設定で「非推奨のLPEギャラリーを表示」にチェックを入れておくと以前のエフェクト一覧画面を表示させるボタンが表示されるようになります。エフェクトごとの短い説明はこの一覧画面なら読めます。

○ パスエフェクトの改良

 パワーストローク先細ストロークは複数のサブパスを含むものにも適用可に。

○ エクステンションの名前を変更

 いくつかのエクステンションの名前(メニュー)が変更されたそうです。リリースノートからリンクされている記事では次のように書かれています。日本語版での表示に全部置き換えるのは大変だ・・・。

Render → Draw from Triangle is now Generate from Path → Construct From Triangle
Generate from Path → Scatter is now Generate from Path → Distribute along path
Generate from Path → Extrude is now Generate from Path → Extrude Between Two Paths
Generate from Path → Interpolate is now Generate from Path → Interpolate Between Paths
Generate from Path → Motion(モーション) is now Generate from Path → Long Shadow(長い影
Modify Path → Color Markers is now Styles → Color Markers
Stylesheet → Merge Styles into CSS is now Styles → Merge Styles into CSS
Generate from Path → Voronoi Pattern is now Generate from Path → Voronoi Pattern Fill

○ オブジェクトの属性の表示と変更

 オブジェクトの属性という以前のバージョンからあるダイアログに、各オブジェクトの種類に応じた情報(例えば多角形か星形かのタイプ)が表示され、そこで直接変更することができるようになりました。

 ただし、バージョン1.3の段階でもまだ改良途上とのこと。

 ※オブジェクトのプロパティダイアログのほうは、同じ属性でもSVG形式としてオブジェクト共通の属性に分類されるものを表示するものという分け方になっているらしい。

○ スウォッチ上で色の名前を表示

 実際の色のとなりにその色の名前も表示するように。

 非表示にする場合はスウォッチの設定から。

○ シンボルダイアログの改良

 シンボル名を表示するようになりました。

 また、シンボルダイアログの検索フィールドに文字を入力するだけでシンボル名のフィルタリングが実行されるようになりました。

 新しい地図記号も追加されました。

○ ドキュメントのリソースダイアログの追加

 ドキュメントのリソースというダイアログが追加され、ここではドキュメント内に埋め込まれている各種リソース(パターンとかシンボルとかインポートした画像とか)の一覧を表示させたり名前を変えたり別のファイルにエクスポートしたりできるようになりました。

   (詳細:ドキュメントリソースダイアログ

○ 共有デフォルトリソースフォルダー

 インストールしたマシン以外の好きなフォルダを「デフォルトのリソース群の置き場所」として環境設定で指定可能になりました。サーバの共有フォルダなどを指定すると便利です。通常はフォルダ指定なしになっています。(実際に指定するとどんな動きをするのかは未調査)

○ 解説コンテンツのアップデート

 リリースノートには「Documentation (tutorials, man page, keyboard shortcuts list) has been updated to reflect the changes in this version.」とありますが、いくつか見てみましたがアップデートされている箇所は発見できなかったので、やはり解説コンテンツは最新版に追いついてないように思えます・・・。