このページでは、Inkscapeのパスエフェクトの1つである「クローンオリジナル」について紹介したいと思います。

(2024.03.11更新)
クローンオリジナルとは
クローンオリジナルは、Inkscapeの基本機能である「クローン」と似た効果を持つパスエフェクトです。
基本機能のほうのクローンは単純に「オブジェクトの分身を作る」機能なので、どのような分身が作られるかは分身の元となるオブジェクトがどんなオブジェクトであるかによって決まりますが、クローンオリジナルは少し違って、クローンオリジナルエフェクトの適用先である分身オブジェクトのほうでパスエフェクトのパラメータを使ってどのような分身にするかを設定したり変更したりすることができます。
例えばフィルの色は一致させるがストロークの色は一致させない(分身のほうで自由に変更できる)ということができます。
分身分身と言っていますが、もう少し具体的にいうと(「クローンを作る」のほうでも書いていますが)オブジェクト指向でいうところの「継承」に近い機能だと理解できます。クローン元のオブジェクトの各属性をクローン先のオブジェクトに「継承」することで見た目がそっくりな「分身」にしていると言えます。
基本機能の方のクローンの場合、どの属性を継承しどの属性を継承しないかは選択できませんが、クローンオリジナルではパスエフェクトの設定パラメータを使って継承する属性を指定することができます。
なお、パスエフェクト全般がそうであるように、クローンオリジナルエフェクトについてもその機能を説明してくれている正式なマニュアルは無いようなので、以下にまとめる動作はほぼ全て試してみた結果から想像したものです。
クローンオリジナルを適用する
クローンオリジナルを適用する手順は次のようになります。
まずクローン元とするオブジェクトを選択します。例えば次の星形オブジェクトをクローン元にしてみます。

このクローン元オブジェクトをクリップボードにコピーします。
次にクローン先のオブジェクトを描きます。クローンオリジナルではクローン元のどの属性をクローン先に継承するかを選ぶことができますが、裏を返せば継承しない属性についてはクローン先オブジェクトそれ自身の属性で表示されるということなので、どの属性を継承しどの属性を継承しないかを考えながらクローン先オブジェクトを描きます。
例えば次のようにテキストオブジェクトを描きます。

そしてそのテキストオブジェクトを選択しておいてパスエフェクトダイアログを開きます。すると、パスエフェクトのダイアログは次のようなものになります。

テキストオブジェクトはパスオブジェクトではないので、そのままではパスエフェクトを適用することができません。そのため、テキストオブジェクトに限ってパスエフェクトダイアログではまずテキストオブジェクトをパスエフェクトを適用できるものに変換する手順の実行がうながされます。
ダイアログ上には「テキストをパスに変換」と「クローン」の2つのボタンがあります。「テキストをパスに変換」をクリックするとパスエフェクトを適用しようとしているテキストオブジェクトをパスオブジェクトに変換することでパスエフェクト適用可能な状態にします。「クローン」をクリックするとテキストオブジェクトからクローンを生成してそちらを選択状態にする(クローン元のテキストオブジェクトはそのまま残る)ことでパスエフェクト適用可能な状態にします。
どちらかのボタンをクリックしてパスエフェクト適用可能な状態にしないと、適用するパスエフェクトを選ぶ画面を表示することができません。
テキスト以外のオブジェクトにパスエフェクトを適用しようとする場合はこの画面にはならず、そのままパスエフェクトを適用することができます。
この例では「クローン」をクリックしてみます。するとテキストオブジェクトのクローンが次のように生成されます。

この状態(クローンのほうが選択された状態)でパスエフェクトダイアログの上でパスエフェクトの候補を表示させ、クローンオリジナルを指定します。

するとクローンオリジナルエフェクトが適用されて、ダイアログは次のようになります。

この画面が表示された状態ではまだクローンオリジナルが適用されただけで、クローン元オブジェクトが指定されていないので、テキストのクローン「あ」は元のまま表示されているだけですが、「リンクされたアイテム」という欄にあるクリップボードの絵のアイコンをクリックするとクリップボード上にコピーされているオブジェクト(上の手順でコピーした星形オブジェクト)をクローン元オブジェクトとして指定したことになり、星形オブジェクトの属性を継承した状態になります。

このように星形オブジェクトをクローン元オブジェクトに指定すると、クローンオリジナルを適用してあるクローン「あ」が星形オブジェクトの近くに移動し、かつ、その見た目は星形オブジェクトそっくりになります。
この段階で「あ」というオブジェクトはテキストのクローンであることに変わりはないのですが、クローンオリジナルエフェクトの機能によって、その見た目は星形オブジェクトのいろんな属性(ストロークやフィルなど)を継承した結果として星形オブジェクトそっくりになっています。
クローンオリジナルの適用対象のオブジェクトの種類に無関係に、クローン元オブジェクトの形状までが継承されるところがおもしろい動きです。
ここで、クローン元の星形オブジェクトの属性を変化させて、例えばフィルやストロークのスタイルを変更したり、星形の角の数を増減したりすると、クローンオリジナルを適用したオブジェクトもそれに合わせて見た目が変化します。

クローンオリジナルのダイアログの使い方
クローンオリジナルのダイアログについてもう少し詳しくまとめておきます。

右上のボタン(目のボタンや「×」ボタン)はパスエフェクト全般に共通のボタンです。この使い方については「パスエフェクトの使い方(共通部分)」のほうで書いています。
リンクされたアイテムという欄の右に2つのボタンがあります。
左のクリップボードの絵のボタンは、クリップボードにコピーされているオブジェクトをクローン元オブジェクトに設定する(アイテムへリンクする)ボタンです。クローン元を変更したい場合は変更先のオブジェクトをクリップボードにコピーしておいてからこのボタンを押します。
右の小さい南京錠が描かれているボタンを押すと、クローン元オブジェクトが選択状態になります。
シェイプと書かれているプルダウンメニューには次のような項目があります。

LPEありを選ぶと、クローン元オブジェクトに適用されている他のパスエフェクトの結果として生成された属性を継承します。
LPEなしを選ぶと、クローン元オブジェクトに適用されている他のパスエフェクトの結果を無視してパスエフェクトのかかっていない状態のクローン元オブジェクトの属性を継承します。
シェイプなしを選ぶと、クローン元オブジェクトのパスとしての形状は継承せずに他の属性だけを継承します。例えば次のように右側の円オブジェクトに対して左側の星形オブジェクトをクローン元とする指定をし、さらにシェイプなしを選ぶと、星形オブジェクトの形を無視してそれ以外の属性(フィルやストロークのスタイルなど)を継承します。

スピロまたはBスプラインのみを選ぶと、スピロスプラインとBスプラインの2種類のパスエフェクトについてだけその結果を継承し、それ以外のパスエフェクトの結果は無視します。
属性の欄にオブジェクトのSVG形式での属性名を記述してEnterキーを押す(または右側のチェックマークのボタンをクリックする)とその属性だけを継承します。ただし、クローンオリジナルでクローン元を指定した直後の状態ではすべての属性を継承します。
CSSプロパティの欄にオブジェクトのSTYLE属性の値として記述されているプロパティ(CSSプロパティ)のプロパティ名を記述してEnterキーを押す(または右側のチェックマークのボタンをクリックする)とそのプロパティだけをSTYLE属性の中から継承します。
InkscapeのSVG形式データの中身は次のようになっています。

この「xxx=〇〇」というところの「xxx」の部分が属性に記述する属性名にあたります。また、この「style="xxx:〇〇;xxx:〇〇」というところの「xxx」の部分がCSSプロパティに記述するプロパティ名にあたります。
属性とCSSプロパティに複数の名前を記述するときは「,」(カンマ)で区切ります。
また、属性とCSSプロパティに何かを指定した後で消した場合は「何も継承しない」ことを指定したことになり、クローン先のオブジェクトの属性は未定義状態(すなわち黒く表示される)になります。
変形を許可というチェックをはずすとクローン先のオブジェクトに対する変形操作(移動も含む)は拒否されるようになり、クローン元とクローン先のオブジェクトはぴったり重なったままになります。変更可能な他の属性はこのチェックをはずしても変更可能なままになります。
同期するシェイプなしというボタンをクリックすると、上に書いたシェイプなしというメニューを選んだ状態と同じになります。
クローンオリジナルの利用上の注意
クローンオリジナルも他の一部のパスエフェクトと同じように少し不思議な動きをします。
一旦適用した状態で無効にしたりエフェクトのパラメータを変更したりすると、クローン先のオブジェクトが妙な位置に勝手に移動したりオブジェクトの種類が変更されてしまったりします。
また、クローン元のオブジェクトの属性を変更するだけではクローン先に反映されないことがあります。その場合はクローン先のオブジェクトをちょっとだけ編集する(例えばちょっとだけ大きくする)と反映されたりします。(その場合はさらに「元に戻す」操作をする必要があります。)
クローンオリジナルの使用例
典型的な使い方としては、パワーストロークエフェクトを適用して変形されたパスをクローン元としてクローン化し、パワーストロークエフェクトそれ自体は継承対象から除外することで、パワーストローク適用前のオリジナルパスからの属性を継承するクローンを生成して再利用するという使い方です。どうしてこんなことをするかというと、パワーストロークエフェクトを適用したパスのオリジナルパスは、一時的にでもパワーストロークエフェクトの適用をはずさないとクローンすることができないので、このクローンオリジナルエフェクトを使ってパワーストロークエフェクトの適用を一時的にはずすことなくオリジナルパスのクローンを生成することができるという利点があるからです。
例で示すと次のようになります。
まず、パワーストロークエフェクトを使ってストロークの幅をいろいろ変化させた次のようなパスがすでにあるとします。
このパワーストローク適用後のパスのフィル(緑色のところ)の色を変えたいとします。しかし、パワーストロークエフェクト適用後のパスのフィルは幅を変化させたストローク部分の内側になっている(このストローク部分は実はストロークそれ自体ではなく、ストロークのように見える閉じたパスになっている)ので、通常のフィル設定操作を行っても次のようにストローク部分の色が変わるだけです。
そこで、クローンオリジナルエフェクトを使って、パワーストローク適用前のオリジナルパスのほうのクローンを生成して、そのフィルに色を設定することによって、あたかもパワーストローク適用後のパスの内側の色を変えたかのような絵を作ります。
クローン元パスとは別にクローンオリジナルエフェクトを適用するパスを追加します。クローン化によってどうせ変形されてしまうので、このパスの形は何でもいいです。例えば次のように単純な線を追加します。
この追加したパスにクローンオリジナルエフェクトを適用します。この時点ではクローン元パスをまだ何も指定していないので、適用後でも何も見た目は変化しません。
次にクローン元パスとして、パワーストローク適用後のパスをクリップボードにコピーしておきます。
次にダイアログ上でアイテムへリンクボタンを押します。これで、クリップボード上のパスオブジェクトをクローン元としたクローンが生成されます。クローンが生成されると、クローンオリジナルエフェクトを適用したパスはパワーストローク適用後のパスのクローンに変換され、かつ、パワーストローク適用後のパスの上にぴったり重なる位置に置かれます。重なっているパスを例えば右のほうにドラッグしてみるとわかります。
次にダイアログでLPEなしを選択します。これは、クローン元のパスに対してパスエフェクトが適用されていない状態で残りの属性を継承することを指示する操作です。すると、パワーストロークを適用していないオリジナルパスのクローンに切り替わるので、次の右側のように目的のフィル(本来塗りたいフィル)が塗られた状態になります。
あとは、フィルの色を通常の操作で変更して(例えば黄色に塗る)、クローン元のパスに重なるように編集すれば、パワーストローク適用後のパスのフィルに相当する部分の色が変更されたかのようになります。
(こんな複雑怪奇なパスエフェクトを分かりやすく説明してくれる解説コンテンツが無いのはしょうがないのかもと思い始めた・・・)