このページでは、Inkscapeを使ってパスのストロークの幅方向(横断する方向)に変化するようなグラデーションを描く方法を紹介したいと思います。

Inkscapeがメインのデータ形式にしているSVG形式では、オブジェクトの塗りつぶしに設定可能なグラデーションとしていくつかのタイプ(直線状、網目状など)がサポートされています。
しかし、サポートされているタイプのグラデーションでは描けないものもあります。
そういうものの中に、曲がったパスに沿ったグラデーションがあります。
SVG形式の仕様なのでInkscapeとしても基本機能の中でサポートするわけにもいかないのでしょう。そこで曲がったパスに沿ったグラデーションを他の機能の組み合わせで(疑似的に)描こうとする工夫がネット上ではいろいろ紹介されています。
多くの場合、機械的な手順が紹介されているだけで、どうしてそのような手順を用いるのかといった説明が省略されていることが多いので、そのあたりも含めて細かい手順をまとめてみようと思います。
例として次のようなグラデーションを描いてみます。

まずグラデーションを設定する対象のパスを描きます。パスの色は最終的にグラデーションを付けたときのストロークの端のほうの色にしておきます。パスの形はグラデーションを描いたあとから変形可能なので、とりあえずどんなものでもいいです。

次にCtrl+"D"でこのパスにぴったり重なった複製を作り、色を変え、幅を細くします。

この複製後の細いパスの色はグラデーションを付けたときのストロークの中心の色になります。このあと複製前と複製後のパスの色の間で変化するグラデーションにしようというわけです。
次に「パス間の補間」というエクステンションを起動します。このエクステンションは2つのパスを同時に選択しておいて適用するとそのパスの間を少しづつ変化するパス群で埋めてくれる(つまり補間してくれる)というものです。パスの位置や形だけでなく色などのスタイルも補間してくれるので、色の違う2つのパスに適用するとグラデーションになるというわけです。

「パス間の補間」にはダイアログ上で指定可能ないくつかのパラメータがあります。2つのパスの間だけでなく、2つのパスにぴったり重なったパスもグラデーションを構成するパスとして生成させたいので終端パスを複製するにチェックを入れます。また、色を補間してほしいので当然スタイルを補間するにもチェックを入れます。
2つのパスを選択しておいて、ダイアログの適用ボタンをクリックすると、次のように細いパスから太いパスに向かって少しづつ太さが変化し、色も変化する一連のパスが生成されます。生成されたパスも全部重なった状態になっているので、ストロークの端から真ん中に向かって色が変化していくように見えるというわけです。

重なっているオブジェクトをすこしズラしてみると次のようになっています。太いパスと細いパスとそれらを補間したパス(のグループ)になっています。

これで出来上がりとしてもいいのですが、もう一押しして、最初に描いたほうのパスを変形するとグラデーション全体も変形するようにしてみます。
どうするかというと、補間によって生成されたパスを全部最初のパスのクローンにして、最初のパスの形と同じ形を維持する(すなわち継承する)ように設定します。
まず細いほうのパスを選択し、メニューで編集 > クローン > クローンオリジナルパスを操作します。そうすると「クローンオリジナルパス」というパスエフェクトが適用されて、細いほうのパスの形を継承しているクローンパスがぴったり重なった位置に生成されます。このクローンパスは生成直後は形以外の色などの属性を継承しない状態になっているので、真っ黒に表示されます。
重なっているオブジェクトをすこしズラしてみると次のようになっています。太いパスと細いパスとそれらを保管したパス(のグループ)とクローンパスになっています。

次にこのクローンパス(黒く見えるパス)を選択してクリップボードにコピーします。なぜクリップボードにコピーするかというと、このクローンパスに適用されているクローンオリジナルというエフェクトそれ自体を補間によって生成された各パスに「ペースト」したいからです。そうすることで、補間によって生成されたすべてのパスが、最初の細いパスと同じ形を維持するようになります。細いパスと同じ形を維持するように設定されているクローンオリジナルエフェクトを他のパスにも「ペースト」することで、他のパスもみんな細いパスと同じ形を維持するようになる、というわけです。
パスエフェクトをオブジェクトに貼り付ける、という不思議な機能をここで上手に利用していると言えそうです。
クリップボードにクローンパスをコピーしたら、補間されたパスを全部選択しておいて、メニューからパス > パスエフェクトを貼り付けを操作します。その結果として、補間されたパスに全部「最初の細いパスの形を継承するというエフェクトが適用される」ことになります。

ここで注意しなければならないのは、補間されたパスは生成時に自動的にグループ化されているので、パスエフェクトの貼り付けを間違ってグループのほうを選択した状態で行わないようにするということです。クローンオリジナルの機能はグループ内の個々のパスにしか発揮されないので、グループ内のパスを全選択してからパスエフェクトの貼り付けを行う必要があります。
この段階で、太いほうのパスとクローンパスは不要なので削除します。
細いほうのパスは補間されたパスと簡単に見分けられるように色を変えておきます(この例では黄色)。

この状態で細いほうのパスを変形すると、細いパスと補間されたパスは同じ形を維持します。

細いほうのパスはクローン元のパスとして残しておく必要がありますが、見えないように隠しておいても問題ないので、一番下に重ねたりしておきます。