このページでは、Inkscapeのオブジェクトをグラデーションやパターンで塗りつぶしたのちに、そのオブジェクトを変形(移動や回転を含む)したりしたとき、それに連動して塗りつぶしの模様がどのように変形するかについてメモしていきたいと思います。
(2024.05.13更新)
というのも、グラデーションやパターンで塗りつぶしたオブジェクトを変形(移動、拡大、縮小、回転など)したりする際に、塗りつぶし部分もそれに連動して変形したりするのが当然だろう(例えばオブジェクトを拡大すればグラデーションの配色も拡大するだろう)と思いきや、SVG形式データのパラメータの値によってはそうではない描き方もできるようで、Inkscapeで塗りつぶしを行うときはそのSVG形式でのパラメータの性質まで含めて理解しておかないと、奇妙に見える動きが発生して混乱しかねないようなのです。
具体的に言うと、次のケースはグラデーション(放射グラデーション)を設定したオブジェクトを移動したり変形したりしても、グラデーションがそれに連動するように変形する場合です。

これはとても自然な動きのように思われます。
一方で次のような描き方もあります。

これはオブジェクトの座標値とグラデーションの座標値が独立して編集される状態です。オブジェクトを移動したり回転したりしても、その塗りつぶしに使われているグラデーションの座標値は連動して変化しないので、グラデーションの模様はその場に留まります。
なぜかというと、塗りつぶし方(グラデーションの色やパターンの模様など)を定義したデータが各オブジェクトの直接の属性として記述されるのではなく、ドキュメント中で「リソース」データとしてオブジェクトデータとは別のところに独立して記述されるからです。オブジェクトを変形することによってオブジェクトの属性(座標値)を変更したとしても、それだけでは「リソース」であるグラデーションやパターンの属性(座標値)は変更されず、オブジェクトの塗りつぶし方としてリンクが張られた状態を維持するだけだからです。
Inkscapeは設定次第でどちらの描き方も可能です。
Inkscapeの環境設定の振る舞い > 変形の画面に「グラデーションを変形する」「パターンを変形する」という2つのパラメータがあります。

このパラメータ(チェックボックス)をオンにすると、塗りつぶしの模様もオブジェクトの変形に連動して変形されるようになります。(デフォルトではオンになっています)
一方、オフにするとオブジェクトを変形しても、塗りつぶしのほうは変形されず、その場に留まります。
典型的にはこの2つのパラメータはだまってオンにしておいてオブジェクトの移動/変形と塗りつぶしの変形を連動させることになると思います。そのほうが編集操作として自然だからです。
なお、環境設定の画面を出さなくても、選択ツールを選んだときにツールコントロールバーの右上に表示されるボタン(トグルボタン)でもこの2つのパラメータのオンオフを切り替えることができます。

Inkscapeのウィンドウが少し小さくてこのトグルボタンを表示するスペースがない場合は次のようにチェックボックスの形で表示されます。チェックボックスのラベルも少し文言が違っていますが、機能は同じです。

Inkscapeは何をやっているのか?
これらのパラメータをオンにしてからオブジェクトを変形すると何が起こるのかというと、グラデーションやパターンの属性の中に、変形されたオブジェクトの座標値に合わせて自分自身の座標値を変換する(すなわち自動的に変形する)よう指示する属性(gradientTransform、patternTransform)が記述されます。(参考:グラデーションのデータ構造)
そうすることで、オブジェクトの表示処理の中で、用いられているグラデーションやパターンの座標をオブジェクトの座標に合わせて変換してから表示するようになるので、オブジェクトを変形すると塗りつぶし模様も連動して変形されるように見えるというわけです。
この変換はあくまでも最終的にオブジェクトを表示するときに実行されるものなので、オブジェクトを変形するためにドラッグしている間、Inkscapeは一時的にオブジェクトの形に連動させて塗りつぶしも変形させます。
そのため、グラデーションやパターンを変形させないよう設定した状態でオブジェクトの変形を行った場合、グラデーションやパターンは変形されないはずなのにドラッグ中は一時的に変形されたものが表示されてしまいます。
例えば次のようにグラデーションは変形させない設定の下でオブジェクトを回転させると、回転中はグラデーションも連動して回転しているように見えますが、ドラッグを終了(回転操作を終了)するとグラデーションだけ元の位置に戻ります。

塗りつぶしの変形についての設定がどうなっているのかを把握していないと、とても奇妙な動きに見えてしまうので、注意が必要だと思います。
トグルボタンの不思議な動作
ツールコントロールバーにあるトグルボタンと、環境設定画面にあるチェックボックスはどちらも同じパラメータを設定するためのものですが、どちらをオンオフするかで挙動が異なります。少し不思議な動作をします。
正式な解説コンテンツがあるわけではないので、いろいろいじって調べてみたのですが、どうも次のような動作をするようです。
環境設定とツールコントロールバーのうち、最後にオンオフを切り替えたほうの設定が有効になります。
ツールコントロールバーのオンオフを切り替えると、環境設定のオンオフも自動的に切り替わります。
環境設定のオンオフを切り替えても、ツールコントロールバーのオンオフは自動的n切り替わりません。
新規ドキュメントを新しいウィンドウで開くと、そのウィンドウのツールコントロールバーのオンオフは環境設定のオンオフと一致します。
というように、少々ややこしい動作をするようなので、結局オンになっているのかオフになっているのかはすぐには分かりません。オンにしているつもりでオフになってしまったりすると塗りつぶしが期待したとおりにならないので混乱してしまいかねません。
グラデーションやパターンで塗りつぶしを行おうというときは、環境設定とツールコントロールバーの設定を常に確認するようにしたほうが良いかもしれません。