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Inkscapeでグラデーションを作る

 このページでは、Inkscapeのオブジェクトをグラデーションで塗りつぶす方法について紹介します。

 Inkscapeではオブジェクト(パス、シェイプ、テキスト)の色を付けることができる部分(フィル、ストローク)を、一色で塗りつぶす代わりに、ある色から別の色に徐々に変化するグラデーションで塗りつぶすことができます。

Inkscapeのグラデーションの例

 (参考:オブジェクトのスタイルを設定する

 (参考:塗りつぶし用の部品の詳細(色、パターン、グラデーション)

 (参考:オブジェクトと塗りつぶしの連動

 (参考:グラデーションのデータ構造


(2023.12.14更新)

グラデーションの基礎知識

 グラデーションは、グラデーション無しでオブジェクトを一旦描いておいて、後からグラデーションパス(Gradient Path)と呼ばれるグラデーション設定用の特殊なパスをそのオブジェクトに重ねることで設定します。

 なぜ「グラデーション無しで…」という手順を踏むのかというと、あるオブジェクトの塗りつぶしにグラデーションを設定しても、別の新規オブジェクトを入力するときにはそのグラデーションが引き継がれないようになっているからです。例えばある矩形オブジェクトのストロークに、次の例の2番目のようにグラデーションを設定しておいて、環境設定ダイアログの円/弧ツールの設定として「最後に使用したスタイル」にチェックを入れてから円を描いても、次の例の3番目のようにグラデーション設定は新規オブジェクトのスタイルとして引き継がれません。

 グラデーションではない、1色の塗りつぶし(この例では黄色のフィル)については引き継がれます。

 見方を変えれば、同じグラデーション設定のオブジェクトを追加で描きたくてもそうならないので注意が必要です。

 グラデーションパスは、オブジェクトの一種であるパスとは別の、グラデーションのいろんなパラメータを設定する基準となるコントロール用のパスです。

 このグラデーションパスの分岐点(□や〇、英語ではStopと呼ばれる)それぞれに色を設定することで、グラデーション全体の設定を行います。2つの分岐点ハンドルに別々の色を設定すると、そのハンドルに挟まれたグラデーションパスに沿って徐々に変化するように塗りつぶされます。

 グラデーションパスの中にはぐにゃっと曲げることができるものもあるし、複数本追加することもできるので、縦横斜めにいろいろ複雑な変化をするグラデーションを生成することができます。

グラデーション機能一覧

 グラデーション設定機能では、次のような編集が可能です。

  〇 どの色からどの色へ変化させるかを指定する。
  〇 どの位置からどの位置へ変化させるかを指定する。
  〇 どんな線(直線、曲線)に沿って変化させるかを指定する。
  〇 色と同じように不透明度も指定して変化させる。
  〇 フィルとストロークにそれぞれ別のグラデーションを設定する。
  〇 あるオブジェクトに設定したグラデーションと同じものを別の
    オブジェクトに設定する。(メニューから選ぶだけ)

グラデーションの種類

 グラデーションには、特徴が異なる3つの種類があります。グラデーションパスが1本の直線(線分)になっている線形グラデーションと、グラデーションパスが互いに直角の2本の直線(線分)になっている放射グラデーションと、グラデーションパスが指定された本数で縦横にマス目状に交わっているメッシュグラデーションです。

グラデーションパスの設定手順

 さて、選択したオブジェクトにグラデーションを設定するには、まず、グラデーションパスを設定する必要があります。(色は後から設定します)

 オブジェクトにグラデーションパスを設定するには、大きく2つの異なる手順があります。

 1つ目は、対象のオブジェクトを選択し → フィル/ストロークダイアログのボタンでグラデーションの種類を選び → ツールバーグラデーションツール(またはメッシュツール)を選んでグラデーションパスを設定し → そのグラデーションパスの分岐点に色を設定したり移動したりする という手順です。


 2つ目は、ツールバーグラデーションツール(またはメッシュツール)を選択し → ツールコントロールバーでグラデーションの種類などを選び → オブジェクトの上でマウスをドラッグしてグラデーションパスを描き → そのグラデーションパスの分岐点に色を設定したり移動したりする という手順です。


 なお、メッシュグラデーションは他の2種類のグラデーションに対して後から追加された機能で、他の2種類のグラデーションと比べて見た目も操作性も大きく異なります。メッシュグラデーションについてはまとまった解説コンテンツもなかなか見つかりませんでした。Inkscapeバージョン1.2の時点でバグっぽい動きも見受けられたので、以下では、線形グラデーションと放射グラデーションについてだけまとめておいて、メッシュグラデーションについては別のページでまとめていこうと思います。

ダイアログからの設定

 フィル/ストロークダイアログからの設定では、対象とするオブジェクトを選択した状態で、フィルタブとストロークの塗りタブのそれぞれで、次のように塗りつぶしの種類を選ぶアイコンが並んでいます。

 左から3番目が線形グラデーション、4番目が放射グラデーション、5番目がメッシュグラデーションを設定するボタンです。

 このボタンを押すと、直後はデフォルトの塗り方(例えば線形グラデーションの場合は横方向に直線的に塗られる)でグラデーションが設定されます。

 ここでツールバーのグラデーションツールをクリックすると、オブジェクト上にグラデーションパスが表示されます。グラデーションパスの端には分岐点(Stop)を示す□と〇のハンドルが表示されます。このハンドルをドラッグすると、グラデーションパスを変形させて、グラデーションの方向を変えることができます。

 グラデーションの変化をどの色からどの色まで行うかは、グラデーションパスの分岐点ごとの色で設定します。分岐点のハンドルを選択して、フィル/ストロークダイアログ上で色を設定します。

 フィル/ストロークダイアログには、グラデーションパスの色設定を行うためのグラデーションエディタ(Gradient Editor)と呼ばれるグラデーション全体の配色を表示したスライダー状のアイテムがあります。これはグラデーションプレビューとも呼ばれるもので、グラデーションパスの分岐点に当たる位置にスライダが配置されているので、ここで分岐点のスライダを選択して色を設定したり分岐点の位置を変更したりすることもできます。


 パレットやスウォッチから色を設定することもできます。詳しくは「グラデーションをパレットで設定する」を。

 フィルとストロークのそれぞれで別々のグラデーションを設定する場合は、フィル/ストロークダイアログのフィルタブとストロークの塗りタブのそれぞれで設定します。なお、グラデーションパスの上でフィルのグラデーションの分岐点とストロークのグラデーションの分岐点がぴったり重なってしまって区別がつかないことがあるので、注意が必要です。

 分岐点の位置がグラデーションの見た目にどういう影響があるのかは予想するのは難しそうなので、グラデーション設定開始時はとりあえず適当にデフォルトの2つの分岐点を設定するだけにして、後から各分岐点のハンドルを選択して移動したり、色を変えたりしながら調整するほうが良さそうです。

グラデーションツールでの設定

 グラデーション設定対象のオブジェクトを選択した状態でツールバーのグラデーションツールのアイコンをクリックし、ツールコントロールバーの左の端(ウィンドウでいうと左上隅)にあるアイコンのうちの右2つから、

設定対象をフィルにするかストロークにするかを選び、対象のオブジェクトの上(またはその外側)から始めて、適当なところまでドラッグして離します。そうすると、ドラッグした位置にグラデーションパスが表示されます。後はフィル/ストロークダイアログから設定する場合と同様です。ドラッグして描いたグラデーションパスの位置は、後から好きなだけ調整できるので、正確な位置でドラッグする必要はないです。

 フィルとストロークでそれぞれグラデーションを設定する場合は、ツールコントロールバーで設定対象を切り替えてから新たにマウスをドラッグしてグラデーションパスを追加します。

分岐点の合体

 フィルに対応するグラデーションパスとストロークに対応するグラデーションパスの分岐点のハンドルがぴったりと重なるように移動すると、それ以降は1つのハンドルでフィルとストロークの両方のグラデーションを一緒に調整することになるようです。(…ようです、というのは、操作してみたらそんな風に動作しているようだったからですが)

 一度合体したハンドルをまた別々にドラッグしたい場合は、シフトキーを押しながらドラッグします。そうすると、直前にドラッグしたほうのハンドルだけを移動することができます。

分岐点の追加

 グラデーションパスの途中の線の上をダブルクリックすると、そこに新しく分岐点が追加されます。この分岐点のハンドル(◇で表示されます)も、位置を変えたり色を設置したりできるので、途中で何段階にも渡って変化するような複雑なグラデーションを設定することができます。

 ただし、線形グラデーションや放射グラデーションではグラデーションパスを曲げたりすることはできないようなので、あくまでも色の直線的な変化を複数段階(フェーズと呼ぶらしい)に分ける操作になります。

分岐点の削除

 ハンドルを選択して、ツールコントロールバーの右端にある削除ボタン(「ー」と書いてあるボタン)をクリックします。

グラデーションエディタの役割

 オブジェクトのグラデーションパス上で行える色設定、分岐点の追加、追加した分岐点の移動は、フィル/ストロークダイアログ上のスライダーのようなGUI(グラデーションプレビューとも呼ばれる)でも(多少操作性は違いますが)可能です。

 ただし、グラデーションパスの両端のハンドルの移動はグラデーションプレビュー上ではできません。

 また、グラデーションエディタには、繰り返しというプルダウンメニューがあります。

 このメニューで3種類の繰り返しパターンから1つを選ぶと、グラデーションパスの両端までの1回のグラデーション(なし)、グラデーションパス全体を繰り返すグラデーション(ダイレクト)、グラデーションパス全体を反転させながら繰り返すグラデーション(リフレクト)を切り替えることができます。

グラデーションとグラデーションパス

 グラデーションは、分岐点とその色を定義したグラデーションそれ自体と、分岐点の位置を定義したグラデーションパスの2つの組み合わせで設定されます。

 グラデーションそれ自体は、個々のオブジェクトとは別に、グラデーションライブラリとしてドキュメントに格納されます。オブジェクトに最初にグラデーションを設定すると、Inkscape内部では新規のグラデーション定義が生成されてドキュメントの中のグラデーションライブラリに追加登録されます。すでにグラデーションライブラリに登録されているグラデーションから選択して設定したい場合は、フィル/ストロークダイアログやツールコントロールバーの次のようなグラデーションボタンを押します。

 すると、グラデーションライブラリにすでに登録されているグラデーションのリストがグラデーションダイアログとして表示されるので、そこから選択してオブジェクトに設定することができます。

 グラデーションダイアログでは、グラデーションの名前の部分をダブルクリックすると、名前を変更することができます(ただし、日本語では入力できないようですが)。わかりやすい名前を付けておけば、ドキュメントに含めたままでテンプレートとして保存して再利用するときに便利です。

 グラデーションダイアログの下のほうにある「+」ボタンを押すと、既存のグラデーションを別のグラデーションにコピーすることができます。また、あるオブジェクトを選択している状態で、そのグラデーションを使っているオブジェクトが他にない場合は「-」ボタンを押すことでそのグラデーションをライブラリから削除することもできます。

複数オブジェクトをまとめて

 複数のオブジェクトをまとめて選択しておいて、グラデーションツールを選択すると、各オブジェクト上にグラデーションパスが表示されますが、その状態でマウスをドラッグすると、それまでのグラデーションパスが消えて、ドラッグしたところに1本だけグラデーションパスが表示され、次のようにその1本でまとめてグラデーションが設定できるようになります。

 この手順について詳しくは「複数オブジェクトにまたがるグラデーションを設定する」にまとめています。

環境設定

 環境設定ダイアログには、グラデーション関連の設定がいくつかあります。

 グラデーション定義を共用しないをチェックすると、同じグラデーションをライブラリから選んで設定したとしても、そのグラデーションの定義(色など)を変更したときに、同じグラデーションを設定したすべてのオブジェクトに反映するのではなく、変更後の定義による新たなグラデーションを生成してライブラリに追加します(つまり、共用しない)。

 未使用のグラデーションを自動削除をチェックすると、グラデーションライブラリ内に未使用のグラデーションがあった場合に自動的に削除されるようになります。ただ、この機能はちょっとわからないところもあって、どのオブジェクトにも使われていないグラデーションになった瞬間に削除される場合と削除されずに残っている場合があることが見受けられていて、その違いはわかっていません。不必要なグラデーションであるとわかっている場合は、グラデーションライブラリのダイアログ上で「-」ボタンを押して、明示的に削除すれば十分かもしれません。