このページでは、紙へ印刷したあとで余分な端の部分を切り取るときの位置などを示す「トンボ」と呼ばれるマークをInkscapeでどのように描くのかをまとめてみたいと思います。
(2024.10.17更新)
「ページのマージンと塗り足し」でも書きましたが、本格的な印刷のときは最終的な紙のサイズよりも少しだけ出っ張るように描いた絵図を少しだけ大き目の紙に印刷しておいて、後からその余分なところを切り取ることで最終的な紙の端までぴったり印刷されているようにするそうですが、余分に印刷するように少し大きめに描いた絵図の場合、上下左右のどこで切り取ればいいのか分からなくなってしまうので、切り取る工程を担当する人にそれが分かるように「トンボ」と呼ばれるマークを一緒に描いておく方法が取られるそうです。

トンボは「トリムマーク(trim mark)」とか「プリントマーク」と呼ばれることもあるそうです。切り取る位置を示すという機能があるので「trim」と呼ばれているのでしょうか。
切り取る位置を伝えるという機能以外に、多色刷りで重ねるインク同士がズレなかったことを目で確認するため(ズレていたら黒い線にならない)や、印刷時にページ番号を追加するときの位置を決めるためにも使われるそうです。
作成した絵図データ(PDFファイルなど)をアップロードして印刷サービスに印刷を依頼するときもこのトンボをあらかじめ描いておくことが推奨されることが多いようなので、Inkscapeで作成したドキュメントにもトンボを描けると便利ですが・・・。
Inkscapeの「トンボ」作成機能
Illustratorにはトンボを描いてくれる標準機能があって、簡単操作でトンボを追加することができるそうですが、Inkscapeにはバージョン1.3.2の時点で標準機能になってません。
代わりにInkscapeのエクステンションに「プリントマーク」という名前でトンボを追加してくれるものがあります。メニューでエクステンション > ドキュメント > レイアウト > プリントマークを操作するとダイアログが表示され、そこでいろいろ設定して適用ボタンをクリックすると次のようにトンボ(を描いたオブジェクト)を自動的にページの周囲に追加してくれます。

ただ、このエクステンションを実行すると確かにいわゆるトンボっぽいものが描かれますが、期待するトンボにならないようです。
- 印刷サービスなどで推奨されている「日本式トンボ」ではない。
- PDFファイルにエクスポートすると塗り足しまでしか保存されないので、塗り足しのさらに外側に描かれているプリントマークは印刷できない。(キャンバスで見えるだけ)
- 描かれるマークの色は設定できない。インクのズレをチェックできるようにCMYKの4色を全部100%にした色をトンボの線に設定することが求められている。
- 複数のページのうち、最初のページ(1ページ目)にしかプリントマークが追加されない。(→これはバージョン1.4で修正されたそうです。)
Inkscapeで手でトンボを描く
しょうがないので、このエクステンションを利用するのをやめて、手でトンボを描いてみました。
といっても、トンボ(日本式トンボ)の描き方のルールのようなものはネット上で発見できなかったので、複数のサイトでトンボの例として示されている画像から、こんな感じかな?と想像して見よう見まねで描いてみただけです。
ざっくり言えば、ページツールで標準的な3mmの塗り足しを設定し(手順は「ページのマージンと塗り足し」を)、その塗り足しの境界線とページ枠にこれから描こうとするパスのノードがスナップするように設定しておいて、トンボの形のパスを描きます。
描き方をまとめると次のようになります。
(1)3mmの塗り足しを設定する
ページツールを使って「ページのマージンと塗り足し」に書いた手順で3mmの塗り足しを設定します。ページ枠の外側3mmのところに塗り足しの境界線が現れます。

(2)スナップダイアログでスナップを有効にする
「境界枠>角」「ページ境界」「ページマージン」「ノード>シャープノード」に対するスナップを有効にします。
これでパスのノードを塗り足しやページの境界にぴったり合わせることができるようになります。
(3)角のトンボを描く
Ctrlキーを押しながらドラッグすることで水平線と垂直線を組み合わせたパスを「コーナートンボ」として描きます。手順(2)で必要なスナップ設定ができていればどんな手順でも簡単に描けますが、例えばページの角のところで折れ曲がるパスを一旦描き、そのパスを今度はCtrlキーを押しながらドラッグして水平に移動して塗り足しの境界線のところにスナップさせても良さそうです。

パスのストロークの幅は印刷サービスの1つで推奨されている「0.3pt」にします。
(4)塗り足しにピッタリ重なる矩形を描く
スタイルはなんでもいいので、塗り足しの境界の4つの角にピッタリ重なる矩形を描きます。
この矩形は次の「辺のトンボ」を中央に揃えるために使います。

(5)短い線分をクロスさせて辺のトンボを描く
短いパス(線分)を2本描いて一方を90度回転させてクロスさせ、さらに中心軸で揃えたりして「辺のトンボ(センタートンボ)」の形にします。

そしてそのセンタートンボを手順(4)で描いた矩形の中心軸に揃えたりCtrlキーを押しながらドラッグしたりして、ページ枠の真ん中で塗り足し線よりも少し外側に配置します。

(参考:オブジェクトを整列/配置する)
(6)それを4カ所に繰り返す
それを繰り返してコーナートンボとセンタートンボを4つの角4つの辺に対して描きます。
手順(4)で描いた矩形は不要なので削除します。

(7)塗り足しの幅を大きくする
ページツールを使って塗り足しの幅を変更して3mmより大きくして、描いたトンボが全部印刷範囲に入るようにします。そうすればPDFファイルにエクスポートしたときに描いたトンボも含めて保存されるようになります。

試しに適当な絵を描いてからPDFファイルにエクスポートしてそのPDFファイルを表示してみると塗り足し部分とその外側のトンボもちゃんと表示されます。

ちなみにこの例は分かりやすくなるように通常のA4サイズよりも小さい用紙サイズを設定しているので塗り足し部分が相対的に大きく見えますが、実際のA4サイズなどではほんの少し外側に広がっているだけの印刷結果になります(切り取られてしまう紙はそれほど多くない)。
手でトンボを描くのはいろいろ細かいところに注意しなければならず、なかなか手間がかかりました。Inkscapeの今後のバージョンではこのような手順を自動的に実行できる機能が標準機能としてサポートされるとうれしいです。