このページでは、Illustratorの使い方を少し勉強した上で、Inkscapeとの違いについての印象をまとめてみたいと思います。

(参考:Aiファイルをインポートしてみた)
(2023.08.01更新)
調べる理由
InkscapeがIllustratorとどのように違うのかがInkscapeを使う上で注目されるポイントであることは、ネット上に存在する各種Q&Aを見ているとよくわかります。「IllustratorでできることはInkscapeでもできますか?」という質問は本当によく見かける質問です。
ネット上では、多くの方が「Illustratorの代わりにInkscapeを使ってみたいが大丈夫?」ということを気にしているのが散見されます。
そこで、自分なりに調べてみました。
個人的にはIllustratorでできることには興味がなく、Inkscapeでできることの範囲の中でいろいろ遊ぼうと思っているだけなので、これまではInkscapeについては調べたり勉強したりしてきましたが、特にIllustratorについて調べることはしてきませんでした。
ところが、ふと「Inkscapeについて新たに知っておくべき機能がどれなのか、Illustratorの機能を知って比較することで、絞り込めるのではないか?」という考えが浮かびました。そこでIllustratorの機能を網羅的に説明してくれている本を入手して読んでみました。(400ページを超えていたので、それなりに時間がかかりましたが)
その結果、とてもざっくりした感覚として、InkscapeとIllustratorは実際どのぐらい違うのか?が分かったような気がするので、印象程度になってしまいますがメモしておきたいと思います。
全体としてどのぐらい違う?
Illustratorでできることのうち、Inkscapeでもほぼ同様に可能なことは10%ぐらいで、Inkscapeの機能をいろいろ組み合わせて工夫しないとできないことが80%、Inkscapeではどんなにがんばってもできないであろうことが10%という感じでした。
特に、テキスト関連の機能(レイアウトやフォント関連)は、Inkscapeで全く不可能とまではいえないけれど、現実的な作業量では無理というべき機能がたくさんありました。
また、印刷関連もInkscapeでは事実上不可能な機能がたくさんあります。
絵図の描画そのものについては、基本的な描画機能をいくつか組み合わせればそんなに苦労することなく同様の結果が得られそうです。逆にIllustratorの高度な機能の中には、頭の中に思い描いている通りの絵図を描けるほど使いこなすのは難しいだろうなと感じる機能もたくさんありましたし、そういう高度な機能を使ったほうが手間が省ける場合と、かえって細かい調整が難しいので基本的な機能を工夫して組み合わせたほうが結局効率が良さそうな予感のするものもたくさんありました。
Illustratorの代用ソフトになれる?
InkscapeはIllustratorの代用ソフトになりうるのか?
永遠の課題なのかもしれません。
結論から言えば、Inkscapeのバージョンを1.3であるとして、Illustratorの代用ソフトにするのは難しいなあという感想です。
そう感じる理由は以下のようなものですが、こういうことってあらゆるカテゴリのソフトウェアで起こっていることで、Inkscape(やそれを作っているみなさん)が悪いわけではないし、ソフトウェアの世界で何年経っても根本的に解決していないことなので、今さらと思わなくはないです。
ファイルの互換性
IllustratorのAIファイルをInkscapeでも読み書きできるそうですが、リリースノート等を読む限りではいくつか互換でないとわかっている点があるそうです。ただ、具体的にどういう点が互換でないのかについては、AIファイルの仕様について深い知識が必要なようで、そこまでは踏み込めてません。
そのうち時間をかけて調べてみたいところです。
操作の互換性
Inkscapeの操作方法はIllustratorとは全然違います。Illustratorの使い方を知っていても、そのまま苦労なくInkscapeを使いこなせるとは思えません。
Inkscapeの操作方法をゼロから覚えていったほうが早いんじゃないかとすら思えました。
機能の互換性
Illustratorの機能には、とても複雑で高度なものが含まれていて、1回や2回使うだけなら使い方をマスターするほうがかえって大変なんじゃないの?というものも多いですが、短い操作手順で複雑な編集を可能にしてくれるので、やりたいことにピッタリはまれば効率は格段にあがることも多そうです。Inkscapeにはそういうタイプの機能があまりありません。
ノコギリや金づちのような基本的な道具でも手間を惜しまなければ家を建てることができるかもしれないけれど、高度なツールを使って作業時間を短縮するほうが優先順位が高い場合(プロの大工さんとか?)もあるよね、といった感じでしょうか。
1年に1回、年賀状や名刺を作るぐらいの作業であれば、Inkscapeでもできないことはほぼないし、少しぐらい作業時間がかかってもまあ気にならないかもしれませんが、例えば毎日のようにWebサイト用のいろんなタイプの画像を作成する仕事をすることを考えると、Inkscapeの機能を上手に組み合わせる工夫をし続けるのはちょっとつらいと思いました。
例えば何が難しい?
Inkscapeの標準機能やパスエフェクト/エクステンション(使い方がわかりやすいもの)を組み合わせたぐらいではすぐにIllustratorと同じ操作を行うことは難しいと感じたIllustrator側の主な機能は、次のようなものです。
Illustratorのこれらの機能は、Inkscapeの提供するどの機能を組み合わせても同じことは出来ないように思われます。
また、そもそもInkscapeの基本データ形式であるSVG形式データでサポートされていない表現だから当然Inkscapeもそのための編集機能を持ち合わせていないというものも含まれています。
なお、座標系の変更については、Inkscapeの場合、ページの左上とページの左下のどちらを原点にするか、1ページ目に原点を置くか各ページに原点を置くか、を切り替えることは可能です。
これらがInkscapeユーザにとってどのぐらい必要度の高いものなのかは分かりません。
また、これ以外の機能でInkscapeで同じことをする手順があったとしても、人によっては「その面倒な手順では可能とはいいがたい!」と感じる人もいるのかもしれません。
(参考:パスエフェクト/エクステンションとは)
Inkscapeは使いにくいのか?
InkscapeはIllustratorと操作性が違うから使いにくい、という意見もよくネット上で見かけますが、それを言っちゃあ同じカテゴリのソフト同士ってだいたいそういうものじゃないか?(笑)と思うので、使いにくい理由としては些細な理由かなと思います。
そもそもInkscapeもIllustratorもドロー系ツールの常として、知らないといけない細かい機能がとても多くて、頭に入ったと思えるようになるのに時間がかかりますし、それまでは「使いにくいなあ」という気持ちが湧いてくるのはしょうがないとも思います。
では、Inkscapeは慣れさえすれば使いやすいのか?ということなのですが、使いやすいとは言いにくいです。フリーで利用させてもらっているくせに!と自分でもちょっと思うのですが、使いにくいと感じる大きな理由に、ところどころに不自然な操作手順がある点が挙げられます。
例えばオブジェクトの属性の変更を行ったときに、変更した直後にキャンバス上に反映する場合と、「適用」ボタンを押さないと反映しない場合があって、区別するのが少し面倒です。
他にすぐ思いつくのは、選んでも何も起こりえない状況でメニューが選べてしまうということです。メニューをグレーアウトするなどで選択不可にしてくれるとうれしいです。
SVG形式ファイルの編集ツールとしての内部的な機能は充実しているのですが、ユーザインタフェースの面では(オープンソースの開発プロジェクトであるためか)リーダー的な設計者の不在があるのかもしれません。そこはさすがに商用ソフトウェアと勝負するのは難しいのでしょうか。
・・・と少しイチャモンぎみに書いてみましたが、バージョンアップするごとにどんどん使いやすくなっていることも体感しているので、まだ完成途上にあるものと理解しています。