このページでは、Inkscapeのパスエフェクトの1つである、オリジナルパスのコピーを、指定した点を中心にして指定した角度で回転した位置に表示し、指定した数だけそれを繰り返すエフェクトを紹介します。
単に同じものを並べるだけでなく、万華鏡のようにある角度で切り取った絵を並べるモードもあります。
(参考:パスエフェクト/エクステンションとは)
(2023.03.23更新)
生成されるコピーはオリジナルパスのそっくりパスとして見かけ上表示されるだけ(分身の術)ですが、ダイアログ上のパラメータによって独立したコピーオブジェクトとして生成させることもできます。
まず、パラメータをデフォルトのままで試してみます。
オリジナルパスを選択してこのエフェクトを適用すると、360度ぐるっと1周する分のコピーが生成されます。オリジナルパス自身は表示されなくなりますが、デフォルトでは1個目のコピーがオリジナルパスと同じ位置(角度)に表示されます。

エフェクト適用後のオブジェクトをノードツールで選択すると、次の左のようにオリジナルパスのノード以外に回転コピーエフェクト専用のハンドルが表示されます(赤い点線で囲ってあるところ)。分かりやすいようにパスのほうの色を薄くしたものが右の絵です。

左のハンドルが回転の中心(開始位置)を指示するハンドルです。そこから2本の線が延びていて、右のハンドルまでの線が回転の開始角を表す線で、もう1本伸びている線が開始角からの相対的な角度(回転角)を表す線です。
次の例の左は、ハンドルをドラッグすることで開始角を変更したものです。オリジナルパスの最初のコピーが表示される角度を指定することになるので、コピー全体が変更後の開始角に応じて回転したようになります。次の例の右は、回転中心(開始位置)のハンドルをドラッグして、オリジナルパスから少し離れた位置まで移動したものです。回転中心を遠くにしたので、全体として広がった感じになります。

ダイアログのパラメータ指定画面は次のようになっています。
デフォルトでは回転角60度でコピー数が「6」なので、ちょうど1周するまでコピーされますが、コピー数を例えば「4」にすると、次のように1周せずに途中までコピーされます。

ここからハンドルをドラッグして開始角を変更すると、1個目のコピーの角度が変更される様子がわかります。

なお、開始角はハンドルのドラッグで指定する代わりに直接数値で指定することもできますが、回転角はダイアログ上に直接数値で指定することしかできません。
また、デフォルトでは均等に配分にチェックが入っていますが、これは360度をコピー数で割った角度を回転角にする指定です。ここにチェックを入れると回転角に指定した角度を無視して必ず1周するような角度でコピーされます。

鏡映コピーにチェックを入れると、単に回転させるのではなく、回転するたびに反転するようになります。

要素を分割にチェックを入れると、生成されたコピーは独立したパスオブジェクトになります。そうすると、次のように個々のコピーのスタイルを独立して変更することができるようになります。

さらにリンクスタイルにチェックを入れると、Inkscapeのクローン機能と似た感じで、各コピーは1番目のコピーをリンクした構造になり、1番目のコピーのスタイルがそのまま他のコピーのスタイルになります。他のコピーは独立したオブジェクトですが、スタイルの変更を独立に行うことはできなくなります。

方式「パスを融合」とは?
コピーの方式として標準(デフォルト)を選択している場合は、単純に一定の角度で回転しながらコピーを生成していきますが、他にも2種類の方式を選択することができます。
ただ、他の2種類の方式は少し分かりにくいです。
まずパスを融合という方式ですが、あんまり名前と機能が合致してないと思います(笑)。この方式は、開始角がゼロの場合の標準方式と同じようにコピーを生成した上で、開始角と回転角の線に挟まれた部分を切り取って並べます。丸いケーキの一部を切り取ってそれをコピーするようなイメージです。結果的に元の丸いケーキにならず、切り取った部分の繰り返しになります。
次の例は標準を選択した状態(1番目)から、パスを融合に切り替え(2番目)、さらに開始角を変更した(3番目)ものです。パスを融合に切り替えると、2本の線(開始角と回転角)の間が切り取られた上でコピーされていることが分かります。3番目のように角度を変更すると、切り取られる範囲もそれに合わせて変化するので、開始角が変化するとともにコピーされる図形も変化していることが分かります。

ここでポイントは、パスを融合ではコピーする対象を切り取るときの断面もちゃんとストロークになっている点と、コピーした結果隣り合った部分がぴったりくっつくときはその断面のストロークが消えて、見た目もぴったりくっついているかのようになる点です。この「2つの隣り合うコピーがぴったりくっついたような表示にする」という処理を「パスを融合」と呼んでいるわけです。
もう少し極端な例として、標準でコピーした時点ですでに重なり合うようなケースを次に示します。この場合は角度を変更するまでもなく、パスを融合に切り替えるだけで隣合うコピーがぴったりくっついたような見た目に変換されます。1番目は標準でコピーしたもの、2番目はその開始角を変更して全体を回転させたもの、3番目はさらにパスを融合に変更したものです。

方式「万華鏡」とは?
次は方式万華鏡です。
この方式はパスを融合に似ていますが、切り取る対象がコピー後のパスではなく、オリジナルパスのみであるという点で異なります。
次の例は、パスを融合(左)から万華鏡(右)に変更したものです。万華鏡のほうを良く見ると分かるのですが、オリジナルパスのノード3つが表示されていて、その真ん中あたりから上半分(開始角と回転角で挟まれたところ)を切り取り、それをコピーしています。パスを融合と違い、コピーされた隣のパスは一緒に切り取られていません。

したがって、例えばオリジナルパスをまったく挟まないような位置まで開始角を移動してしまうと、切り取られるものがなくなってしまうので、何も表示されなくなります。
この方式は、実際の万華鏡の中にオリジナルパスを置いて覗いたような絵になるというわけです。
「隙間」について
このパラメータはさらに難しいです。
このパラメータは、パスを融合や万華鏡で隣り合う2つのコピーの間にどのぐらいの隙間を入れるかを指定するものですが、例えばこれを「ゼロ」よりも大きい値に設定すると、次のようにコピーを並べるときに隙間が生まれます。

隣り合うコピーがくっついたような見た目にしたいのに、これではくっつたいように見えないので、隙間をゼロにすればよいと思いきや、ゼロにしてしまうとどうやら隣り合ったコピーパスのストロークを一体化する処理が難しいらしいです。そこで隙間としてはゼロよりほんの少しだけ小さいマイナスの値を指定するようにしたというわけです。
では少しだけ小さいマイナス値の固定値で処理すればよさそうなものですが、マイナス値を指定するとパッと見には分かりにくいですが、ほんの少しだけ隣り合うコピー同士が重なることになるので、それはそれで困る場合もあるだろうということで、描いているオブジェクトの形や大きさに応じて自分で調整できるようにしたのだろうと想像します。