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Inkscapeのシェイプビルダツール

 このページでは、Inkscapeのバージョン1.3で新たにサポートされた「シェイプビルダツール」というツールについて紹介していきます。

 (参考:シェイプビルダツールの細かい話

 (参考:シェイプビルダツールを使ってみた

(2023.09.04:更新)

はじめに

 「シェイプビルダツール」は、互いに交差する(一部や全部が重なっている)シェイプやパスを対象として、それらが重なり合うことで区切られた領域をマウスで選択するとその領域の端をなぞるようなパスに変換してくれるツールです。

 別の言い方をすると、複数のパスのそれぞれから一部分を切り取ってきてつなぎ合わせた形を作るツールとも言えます。

 このツールInkscapeの他の機能に比べてもいろいろとややこしい性質がありますが、Illustratorにも同様の機能(そちらも日本語で「シェイプ形成ツール」と呼ばれる)があるとのことなので、InkscapeをIllustratorの代替ソフトとして使うことを考えているみなさんからはこの「シェイプビルダツール」への期待はとても大きいようです。Illustratorのほうの解説コンテンツを見る限りでは、ほぼ同じコンセプトのツールと言えそうです。

 なお、Illustratorとの違いについては下のほうにまとめておこうと思います。

何が出来るツール?

 そもそも何のためのツールなのか?「シェイプビルダ」という名前なので、てっきりオリジナルシェイプを作れる(矩形や星形のように部品化できる)ツールなのかと思ったのですが、そういうことではなく、互いに交差するアウトラインを交点のところで切り分けて、それらを1本に繋ぎ合わせることで新たなパスを生成してくれるツールのようです。大きな紙にカッターで縦横に切り込みを入れてジグソーパズルのピースを切り出す作業に似ているかもしれません。Illustratorユーザのみなさんにとっては当たり前のことだと思いますが。

 その機能からすると「シェイプビルダ」というよりは枠線を作るという意味合いで「アウトラインビルダ」とでも呼んだほうが分かりやすいかなと思ったりします。自作フォントのアウトラインを作るときなどに使えそうですし。

大まかな動作

 互いに交差する図形(シェイプやパス)をまとめて選択しておいて、ツールバーにある「シェイプビルダツール」(デフォルトでは上から3番目のアイコン)をクリックします。

 すると、選択した図形以外はキャンバスに表示されなくなります。選択したほうの図形はそのアウトラインが表示されます。

 なお、バージョン1.4で他のオブジェクトもうっすら表示できるようになりました。ツールコントロールバーの「目」のボタンをクリックすると、その透明度を指定できます。

 そしてマウスカーソルをこの図形の上に移動すると、次のように交差するアウトラインで区切られた領域のうちマウスカーソルの乗っている領域が水色で塗られた状態になり、同時にマウスカーソルの横に「+」のマークが現れます。

 この状態で区切り領域をクリックして選択します。すると選択した領域の色が濃くなります。

 ここでEnterキーを押したりツールバーの選択ツールをクリックしたりすると、シェイプビルダツールの編集状態から抜けて、次のようにマウスでクリックした領域を囲うパスに変換されます。

 このとき編集前のパスは消えてしまいますが、ツールコントロールバーの「×」が描かれているトグルボタンをオフにすると、編集後にも編集前のパスが消えずに残るようになります。

 複数の領域をそれぞれクリックすると、それら複数の領域ごとにパスに変換することもできます。

 また、マウスで複数の領域を連続してドラッグすると、ドラッグした範囲の領域が結合されて1つのパスに変換されます。例えば次のように3つの区切り領域をまたいでドラッグするとそれらが繋ぎ合わされたパスになります。

 このように、シェイプビルダツールは複数の交差したシェイプやパスの上で指定した区切られた領域のアウトラインをつないだようなパスを生成してくれるツールです。

 例えばInkscapeには1つのパスから柱状の3D物体のように見えるパスに変換してくれる「押し出し」というパスエフェクトがありますが、このエフェクトを適用した後のパスにシェイプビルダを使うと、「押し出し」エフェクトで生成された線のうち余分な線を消してもっとすっきりした柱状の絵を描くことが簡単にできます。

 なお、シフトキーを押しながら同様の操作をすると、マウスカーソルの位置の領域はピンク色になり、カーソルの横に「-」のマークが出現し、クリックするとその領域が消去されます。

 この場合は消去されずに残ったほうの領域を囲うようなパスが生成されます。

 ちょっと分かりにくいですが、消去した真ん中のところ以外の2つの領域がそれぞれパスになっています。

ビットマップオブジェクトのクリッピング

 バージョン1.4で追加された機能です。

 ビットマップオブジェクトと他のオブジェクトを両方選択してからシェイプビルダの編集を開始すると、編集後に生成されたパスでビットマップオブジェクトをクリッピングしてくれます。シェイプビルダで生成したパスとビットマップオブジェクトを選択しておいてクリッピングするという操作手順とほぼ同じ結果が得られます。

 詳細は「シェイプビルダを使って画像を切り取る」を。

Illustratorとの違い

 Illustratorの解説コンテンツ(Adobeのサイト含む)を読んだだけですが、どのような違いがあるかというと次のような感じです。

 Illustratorにはぴったり閉じていなくても区切り領域として選択可能にしたり、ストローク上をクリックするとそこで分割する機能があったり、生成したパスを塗る色を固定値に設定することができたりします。パスの切れ端を繋ぎ合わせて別のパスを作る(まさにシェイプビルダ)ために便利な機能がいろいろ提供されている感じです。

 一方、Inkscapeはバージョン1.3の時点では閉じたパスを互いに交差するところで切り分けて組み合わせるという機能までがサポートされています。将来のバージョンでIlllustratorと同様の機能が追加されていくことを期待したいところです。

 また、他の違いとして、Illustratorは削除したい領域を指定するときは何らかのキーを押しながら(これを「消去モード」と呼ぶらしい)その領域をクリックするようですが、Inkscapeでは同様にキーを押しながらクリックして削除する以外に、「削除メインモード」とでも呼ぶようなモードがあって、そのモードにすればクリックするだけで削除できるようになります。(詳しくは次のセクションで)

削除モード

 正式には何と呼ぶべきなのか分からないのですが、Inkscapeのシェイプビルダツールには「追加メインモード」と「削除メインモード」とでもいう2つのモードがあります。

 このモードの切り替えはツールコントロールバーの左上にあるボタンで行います。

 デフォルトでは「追加メインモード」になっていて、単にクリックすると領域の追加、シフトキーを押しながらクリックすると領域の削除が行われます(このことはすでに上で書いた)が、「削除メインモード」に切り替えるその操作手順が反転して、単にクリックすると領域の削除、シフトキーを押しながらクリックすると領域の追加が行われるようになります。

シェイプビルダツールで気になるところ

 Inkscapeのリリースノート等を読んでもおおざっぱな動作が書かれているだけなので、シェイプビルダツールを使ってどのような手順で操作すると最終的にどのようなパスオブジェクトを作れるのかを予想するのはとても難しいです。

 例えば領域の選択(水色)と消去(ピンク色)は対称的な関係になく、選択済みの領域でも選択済みでない領域でも消去できるし、一度消去した領域は選択することができなくなるので、再度選択可能にしたい場合は元に戻す(Undo、Ctrl+Z)操作を行う必要があります。結果として追加と削除を領域ごとにどんな順で行っていけば欲しい形の図形になるのかはわかりにくいと感じました。追加も削除もドラッグも逆の操作がいつでも可能(例えば、一度ドラッグで結合した領域の上を再度ドラッグすると今度は分離していくとか)だといいかもと思ったりします。

 また、領域を1つも選択せず消去だけをしたときは消去しなかった領域が全部残ってパスに変換されますが、一部を選択し一部を消去した場合は選択した領域だけが残り、選択も消去もしなかった領域も消去されます。ちょっと分かりにくいです。

 また、シェイプビルダツールで編集中に「+」と画面に表示されているときは「区切り領域の追加」を行うモードになっているはずですが、追加ではなく削除が行われてしまったりするので、バージョン1.3の段階ではまだ不具合が少しあるようです。

 少しいじってみると複数のパスが交差している状態でも使えるように思えるのですが、リリースノートでは「multiple overlapping shapes, or one self-intersecting path」とあるので、ほんとうは使えないのかもしれません。

 こういうことは今後のInkscapeのバージョンアップで自然に解消するのかもしれませんが、本格的に活用するときはいろいろ混乱してしまいそうです。