このページでは、Inkscapeを使ってオブジェクトを回転する操作を行うときの中心点(回転の中心)について、あまりネット上で紹介されていない性質についてまとめてみたいと思います。
(2024.04.17更新)
回転中心は「オブジェクトの変形」のほうでも書いたように、選択状態のオブジェクトをさらにクリックする(例えばゆっくりと2回クリックする)ことで現れる回転ハンドルをドラッグしてそのオブジェクトを回転させるときの中心になる点のことです。

この回転中心には、次のような性質があります。
- 回転中心の位置(座標)は通常バウンディングボックスの中央になる。
- 複数のオブジェクトを選択しているときの回転中心はその複数オブジェクト全体のバウンディングボックスの中央になる。
- 回転中心はハンドルをドラッグすることで移動できる。
- 移動された回転中心の位置はオブジェクトの属性として記憶される。
- シフトキーを押しながら回転中心のハンドルをクリックすると、オブジェクトの属性として記憶していた回転中心の位置は消去(クリア)される。
実はけっこうややこしい性質だと思います。
複数のオブジェクトを同時に選択した状態でそのオブジェクトの上をクリックすると、複数のオブジェクト全体を回転させるモードになりますが、このときの回転中心はその複数のオブジェクト全体のバウンディングボックスの中央になります。

当然回転するとそこを中心として複数のオブジェクト全体が回転します。
ただし、この複数のオブジェクトの回転中心はデータとして記憶されているわけではないので、選択するオブジェクトの組み合わせによってコロコロ変わります。
ややこしいのは回転中心はハンドルをドラッグすることで移動することができるということです。

回転中心を移動すると、移動後の回転中心にしたがって回転するようになります。

複数のオブジェクトを選択している状態でも、回転中心を移動することができます。

この場合も移動後の回転中心で回転するようになります。

また、シフトキーを押しながら回転中心のハンドルをクリックすると、回転中心を最初のデフォルトの位置に戻すことができます。

と、ここまでは比較的分かりやすいのですが、ここからさらにややこしくなります。
デフォルトでの回転中心の位置はバウンディングボックスの座標値から自動的に決定される位置になるので、その位置の座標はデータとして記憶されていません。回転ハンドルを表示させるたびに計算されているのだと思います。
ところが、デフォルトの位置から回転中心を移動した場合は、移動後の位置はオブジェクトの属性に追加されて記憶されます。もちろんInkscape SVG(Inkscape用拡張SVG形式)としてファイルに保存すると回転中心の座標として保存されます。

複数のオブジェクトの回転中心を移動した場合は、回転中心のハンドルは1つしか表示されませんが、回転中心の座標は個々のオブジェクトの属性として保存されます。だから複数のオブジェクトを選択して回転中心を移動し、次に各オブジェクトを個別に回転しようとすると、各オブジェクトの回転中心はそこに移動していることになります。例えば複数のオブジェクトを選択して回転中心を移動したあとで、次のようにオブジェクトそれぞれの回転ハンドルを表示させると、オブジェクトごとに自分から見た回転中心の位置を保持していることがわかります。

例えば次のように複数のオブジェクトの回転中心を移動してから、オブジェクトを個別に回転すると、同じ回転中心の周りで別々の角度に回転させることになります。

個々のオブジェクトの属性として記憶された回転中心の座標は、それらを同時に選択した上でシフトキーを押しながらクリックすることで、全部まとめて消去することができます。消去後の回転中心は再びバウンディングボックスの中心になります。
回転中心がすでに移動されているオブジェクト(回転中心の位置を自分の属性として保持しているオブジェクト)を複数同時に選択したときの回転中心は、後から選択したほうのオブジェクトの回転中心になります。マウスドラッグなどの一回の操作で同時に選択した場合は上に重なっているほうです。
なお、Inkscape SVGでは移動後の回転中心が保存されますが、標準SVG形式にはこの属性がないらしく、標準SVG形式(プレーンSVG)で保存すると除去されてしまいます。(2種類のSVG形式については「Inkscape入門」を。)