お絵描きソフトInkscape(インクスケープ)の使い方を初級レベルから上級レベルまで広く紹介しています。
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Inkscape入門

 このページでは、Inkscapeを初めて使おうとするときに知っておくべき情報として、よく使われる基本用語と典型的な編集作業の手順などをまとめます。

 

(2024.10.07更新)

はじめに

 Inkscapeを長いこと使ってきましたが、今になってみて初心者だったあの日に知っていたらその後Inkscapeの理解を進めるのがもう少し楽だったなあと改めて思えることをここにメモしておこうというわけです。

 同じように初めてInkscapeを触ってみようとしているビギナーの方がこれを読めばわずかでも助けになるのじゃないかと期待してます。

 あくまでも最小限の知識のメモのつもりなので、細かいことは端折ってあります。

まず知っておいた方がいいこと

 Inkscapeについて調べたり試したりする前に、とにかくまず知っておいたほうがいいと思うことを書いておきます。

  • Inkscapeは「SVG(Scalable Vector Graphics)」と呼ばれるWebブラウザで表示可能な絵図データの標準形式の編集ツールなので、SVG形式で表現可能な絵図は基本的に作成できるものと思われます。その反面、SVG形式のデータの特徴をそのまま編集機能に反映している感じなので、手で描く代わりにマウスで描こうとしているだけのユーザの立場から見ると、少し分かりにくい用語、操作手順、GUIになっています。Inkscape用語の多くが実はSVG用語だったりします。慣れるまで少し時間がかかりました。
  • 用語の日本語訳(メニューの日本語表記など)に誤訳っぽいところがたくさんあります。
  • そのため解説コンテンツを読む前に勘でいじっているうちに使い方が分かるようになることは期待できないと思います。少し我慢してビギナー向けの解説を読んで一通りの用語と操作手順を頭に入れてから使い始めてみるのがいいと思います。慣れればどうということもないです(機能が複雑なソフトは大概そういうものかと)。
  • まれに異常終了してしまうので「自動保存」を使ってバックアップしておくのがおすすめです。
  • 他のツールのファイルが完璧に読み書きできる(完全な互換性がある)ことは保障されていないと思います。フリーソフトなのでそういうものかと。ラスター画像ファイル(JPEGやPNG)、PDFファイルの読み書きで「互換性がないなあ」と感じたことは個人的にはないですが…。
  • インストールやアップデートは簡単で、ダウンロードしたインストール用ファイル(例えばinkscape-1.3.2_xxxxx.exe)をダブルクリックするなどして実行する程度で済むけれど、アップデートすることで小さい不具合が増えてしまっている場合やよく使っていた機能が無くなってしまう場合があるので、いつでも戻せるように昔のインストール用ファイルも取っておいたほうがいいと思います。
  • Inkscapeについての「世間の声」はあまり気にしないほうがいいかもしれません。Inkscapeの悪口(?)をときどき見かけますが、よく分かっていない段階で言っているらしいものも多くて、結構誤解があると思います。Inkscapeにはまとまった解説コンテンツが不足しているので、誤解したまま悪口言いたくなる気持ちも分からなくはないです。

 ちなみにInkscapeを少しいじってみたころに改めて押さえておいたほうがいい知識について「Inkscapeについてのありがちな誤解」にメモしていきます。

Inkscapeとは何か

 Inkscapeは「ドロー系」と呼ばれる種類のお絵描きソフトの1つです。

 一般的にお絵描きソフトには大きく2種類のものがあって、「ドロー系」と「ペイント系」と呼ばれています。

 「ドロー系」は定規やコンパスを使っているかのように線画や文字を描き、それらの座標値や文字コードと属性(色や線の太さなど)を組み合わせたデータを作成するソフトです。画面上に並んでいるドット(ピクセル)の1つ1つの色を記録したデータではなく、ところどころの座標値や文字コードを記録したデータ(ベクタデータと呼ばれる)で、表示する瞬間にドット(ピクセル)ごとの色が計算されて表示されます。ポスターのロゴや論文の図表など、幾何学的な絵を編集するのが得意です。Inkscapeはこちらのタイプのお絵描きソフトです。

 「ペイント系」は絵具で塗るかのように絵を描き、画面上で縦横に並んだドット(ピクセル)ごとの色のデータを作成するソフトです。写真のようなビットマップ画像(イメージ画像、静止画像とも呼ばれる)を編集するのが得意です。

 Inkscapeは「ドロー系」なので一度描いた線画や文字(まとめて「オブジェクト」と呼ぶ)を移動したり、大きさを変えたり、上下に重ねたり、色を変えたり、変形したりすることが簡単にできます。

 Inkscapeは20年ほど前から開発がスタートしたオープンソースソフトウェア(ソースコードが公開されていて、無償で利用可能なソフトウェア)で、最近バージョンが1.0になったばかりです。オープンソースなので、いろんな人が(学生さんも)開発に参加していて、バージョンが上がる度に大きく機能が追加されたり変更されたりします。前はあったボタンが次のバージョンで無くなったりとか。そこはある程度覚悟しておいたほうがいいかもしれません。

 みんなで作っているせいか、ツールとしてのデザイン(特にGUIなどの操作性)の統一感が小さいように思いますが、慣れます(笑)。新しい機能が追加されるとバグも増えたりしちゃうこともあるようですが、さすがにしょっちゅう異常終了することは少なくなったと思います。

Inkscapeの扱うデータの形式

 Inkscapeは「SVG形式」(…を少しだけInkscape用に拡張した形式)というベクタデータのファイルを読み書きします。

 「SVG形式」はWebブラウザで幾何学的な絵図を表示するためのデータ形式として、HTMLやCSSと同じように標準化されたものです。メジャーなWebブラウザソフトで表示可能です。

 HTMLと同様にタグ(<>)を使う形式になっていて、例えばHTMLコンテンツの中に挿入することでビットマップ画像に加えて幾何学的な絵を含むWebコンテンツを作ることができます。

 Inkscapeではこの「SVG形式」の仕様を独自に拡張して、記述可能なデータの種類を少し加えることで、より高度な編集を可能にした「Inkscape SVG」というInkscape用拡張SVG形式とでも呼ぶべき形式をベースの(普段読み書きする)データ形式にしています。

 ちなみにInkscape SVGの中身は次のようになっています。

 Inkscape SVG以外の他の形式のベクタデータとして、拡張なしの標準SVG形式(InkscapeではプレーンSVGと呼ばれています)のファイル、PDFファイル、PostScriptファイルなども読み書きすることができます。

 ただしそれらはInkscape専用の形式ではないので読み書きするときに編集用の情報が欠落してしまうことがあります。だから通常はInkscape SVGで「読み込み→編集→保存」を繰り返して、必要に応じて他の形式のファイルに保存したり、他から入手したファイルを読み込んだりするという使い方が多いかと思います。

  (参考:読み書き可能なファイル形式一覧

基本的な用語

 Inkscapeは「ドキュメント」として絵を作り、「Inkscape SVG」のファイルで保存します。「ドキュメント」は「キャンバス」と呼ばれる大きな画面領域の中に表示されます。次の画面例でいうと、左半分のスクロール可能な領域が「キャンバス」にあたります。

 「ドキュメント」のうち、印刷されたり他ソフト(例えばWebブラウザ)に表示されたりする領域は「ページ」と呼ばれて、灰色の「キャンバス」の真ん中に四角い枠(デフォルトでは白い背景)で表示されます。この「ページ」の内側に描いた絵が印刷や他ソフトでの表示の対象になりますが、編集時は「ページ」の内側と外側に特に差はなく、どちらに描いても同じように編集できます。「キャンバス」上に描いた絵のうち、他ソフトで表示したり印刷したりしたい部分を「ページ」の枠として切り出しているとも言えそうです。

 「キャンバス」をスクロールしていけばそれに合わせて「ドキュメント」をどんどん拡げることができるので、キャンバス全体の大きさを気にすることはありません。絵を描いたあとから「ページ」のほうを移動したり大きくしたり小さくしたり向きを変えたりして印刷/表示範囲を変えることもできます。

 Inkscapeの「画面構成と各部の呼び名」は別ページでまとめているので、そちらを見て各部の呼び名を押えておくといいかもしれません。

 Inkscapeでキャンバス上に描く図形やテキストは「オブジェクト」と総称されます。

 「オブジェクト」には「シェイプ」「パス」「テキスト」「ビットマップ画像」の4種類があります。「シェイプ」は四角形や円弧のような典型的な(汎用的な?)形状の図形です。「パス」は複数の点を連続してつないだ自由な形の線(曲線や折れ線)です。「ビットマップ画像」はイメージ画像をファイルから取り込んで四角く表示したもの(埋め込み画像と言えばわかりやすいかも)です。

典型的な作業の手順

 Inkscapeで絵を描く典型的な手順は次のようになります。

 Inkscapeを起動すると、キャンバス上には何も表示されず、新しい空っぽのドキュメント(新規ドキュメント)の編集を始めた状態になります。

 左端にあるツールバーで、入力したい種類の図形に対応するツールのアイコンをクリックしてから キャンバス上でマウスボタンを押す → 押したままドラッグする → マウスボタンを離す という操作をすると、新しい図形(オブジェクト)がキャンバスに追加されます。次の例は星形ツールを選んでドラッグしたものです。

 追加したオブジェクトを移動したり拡大縮小したりするときは、左端にあるツールバーで、選択ツール(矢印のアイコン)をクリックして オブジェクトの上でマウスボタンを押す(オブジェクトが選択される) → もう一度押してドラッグする という操作をします。

 また、オブジェクトを選択した状態でプルダウンメニューから「オブジェクト > フィル/ストローク」というメニューを操作すると、そのオブジェクトの色などの属性を変更するための画面(ダイアログと呼ばれる)が表示されるので、このダイアログの上で、色の変更、グラデーションの設定、不透明度の設定などを行います。 

 (参考:Inkscapeのウィンドウ/ダイアログの特殊な機能

 編集が終わったら、プルダウンメニューから「ファイル > 保存」というメニューを操作すると表示されるダイアログの上で、保存形式として「Inkscape SVG (*.svg)」を選んで保存すれば、Inkscape SVGのファイルに保存されます。それ以外の形式でも保存できますが、上ですでに書いたように、保存したときに欠落する情報があるので、通常はInkscape SVGのファイルとして読み書きを繰り返します。

ツールで入力/編集

 多くのドローツールがそうであるように、Inkscapeにも「ツール」というものがあります。「ツールバー」には「ツール」のアイコンが並んでいて、やりたいことに応じて1つ「ツール」を選びます。そして、どの「ツール」を選んでいるかによって、可能な編集操作が変わります。

 新しく「シェイプ」や「パス」といったオブジェクトをキャンバスに追加したいときは、矩形ツールペンツールなどを選び、キャンバスにすでにあるオブジェクトの変形や属性の変更をしたいときは選択ツールノードツールを選び、色で塗りつぶしたいときはグラデーションツールバケツツールを選ぶといった具合です。

 例えば「矩形(長方形)」オブジェクトを新たに「キャンバス」に追加するには、「ツールバー」から「矩形ツール」を選んで、「キャンバス」上でマウスをドラッグするなどして描きます。

 ただし、ほとんどの編集操作には対応する「ツール」が無く、「ツールバー」の一番上にある選択ツール(矢印のアイコンのもの)を選び、編集対象のオブジェクトを選択し、メニューなどから編集操作を選ぶという手順で実行します。どの編集操作がどの「ツール」に対応しているもので、どの編集操作が選択ツールで選択してメニューから実行するものなのかを頭に入れるまでが中々時間がかかります。

 ちなみに、「ツール」という呼び方はお絵描きソフト一般の定番の用語なので広く使われていますが、筆とかコンパスなどの目に見える道具のようなものではない「ツール」がほとんどなので、「ここでは〇〇ツールを使って…」という言い方ではピンとこないことが多いです。「ツール」というよりは「モード」と表したほうが個人的にはしっくりきます。「ここでは〇〇モードに切り換えて…」という言い方です。「選択モードに切り換えて」「円弧入力モードにして」などと言われたほうが分かりやすいような気がします。

選択ツールとノードツール

 すでに描いたオブジェクトを移動したり回転したり拡大縮小したり色を変えたりする場合は、まずツールバーの「選択ツール」をクリックして、続いて編集対象のオブジェクトをクリックして選択状態にしてから、選択状態になっているオブジェクトをドラッグしたり(移動)、8方向の矢印状のハンドルをドラッグしたり(拡大縮小)、ダイアログ上でパラメータを変更したり(色の変更など)します。

 また、オブジェクトの形を定めている点(四角形の4つの角や星形の頂点など)は「ノード」と呼ばれています。データ中には「ノード」の座標値が格納され、キャンバス上ではその「ノード」が小さい◇や□で表示されます。「ノード」の1つ1つを編集したいときは、「選択ツール」ではなく、その1つ下の「ノードツール」をクリックしてから編集対象とするオブジェクトをクリックすることで「ノード」を表示させて編集可能な状態にしてから、その「ノード」をドラッグしたり削除したりします。

オブジェクトの構造

 「シェイプ」「パス」「テキスト」は、輪郭を表す「ストローク」と、その内側の塗りつぶされる領域である「フィル」とから構成されます。(「テキスト」も複雑な「パス」の一種なので、「ストローク」と「フィル」があるところがポイントです)

 「オブジェクト」の色などの属性(スタイル)の多くは、「ストローク」と「フィル」でそれぞれ独立に設定します。

 次の例は、Bスプラインタイプの「パス」オブジェクトを「選択ツール」を使って選択した状態です。青い線の部分が「ストローク」で、水色の部分が「フィル」です。

 次の例は、上と同じ「パス」オブジェクトを「ノードツール」を使って選択した状態です。「パス」の各「ノード」が◇で表示されています。このノードをドラッグすることで、「パス」を変形することができます。


オブジェクトの属性の変更

 選択状態のオブジェクトの属性を変更したい(例えば色や線幅を変えたい)ときの細かいパラメータの指定は、画面右半分にタブ状に重なって表示される「ダイアログ」と呼ばれる画面の1つであるフィル/ストロークダイアログで行います。

 フィル/ストロークダイアログは、プルダウンメニューから「オブジェクト > フィル/ストローク」というメニューを操作すると表示されます。

 このダイアログでは、「フィル」や「ストローク」の色の変更、「フィル」や「ストローク」の塗りつぶしパターンの設定、「フィル」や「ストローク」のグラデーションの設定、「フィル」や「ストローク」のぼかしの設定、「フィル」や「ストローク」の不透明度の設定、「ストローク」の太さや線種や角の丸め方の設定などを行います。

 ちょっと補足しておくと、「ダイアログ」というと一般的に別ウィンドウとしてポップアップされるものが主流ですが、Inkscapeのダイアログは(デフォルトでは)タブ状に重なって表示されるタイプのダイアログになっています。

 (参考:Inkscapeのウィンドウ/ダイアログの特殊な機能

新規オブジェクトのスタイルの設定

 キャンバス上の位置、サイズ、回転角度などの属性以外のオブジェクトの属性(色など)をまとめて「スタイル」と呼びます。(ただし、どんな属性が「スタイル」でどんな属性が「スタイル」ではないのかはそんなに明確ではないです)

 「ツール」を選んで新たに追加入力した直後の「オブジェクト」のスタイル(初期スタイル)には、「ツール」をクリックした後(追加入力する前)に自由に設定できるものと、他のすでに入力済みの「オブジェクト」から転用(流用)することしかできないものとがあります。色や線の太さなどは他の「オブジェクト」から転用するか、または追加入力した後でフィル/ストロークダイアログなどから変更することしかできません(ここは少しクセがあります)。「ツール」を選び次に色を選びキャンバスに描くというごく自然な手順でオブジェクトを追加できるだろうと期待してしまいそうですが、それが出来ないのでとまどいやすいです。新規オブジェクトのスタイルについて詳しくは「スタイルの転用」のほうでまとめています。

サポートされているオブジェクトの種類

 Inkscapeで簡単な操作で入力可能な典型的なオブジェクトのサンプルを、主要なものだけまとめてみました。クリックすると大きい画像で表示できます。

 もちろん、簡単な操作で入力したオブジェクトを合体したり一部削除したり変形したりすることでいろんなオブジェクトを描くことが可能です。

 ざっくりしたInkscapeの使い方はこんな感じです。あとは、編集操作の種類やオブジェクトの種類やツールの種類ごとの細かい使い方をひたすら覚えていくだけです。

 Inkscapeでもう少し細かいレベルで何ができるのかは「Inkscapeでできること」に一覧しやすい形でまとめてみました。

解説コンテンツについて

 Inkscapeには、一般のソフトパッケージに含まれるような純正のリファレンスマニュアルがありません。機能の主要部分だけ解説してくれているチュートリアルや有志の解説サイトはInkscapeのヘルプメニューから表示できるようになっていますが、どちらも最新版(2023.07現在でバージョン1.3)に対応していない部分があるので、使う上では少し不安はあります。

 一方で、最新バージョンについては、英語で書かれているものも含めればあちこちに有志によるトピックごとの解説コンテンツがすぐ見つかるので、それらが解説しているTipsをつまみ食いして頭の中でマージすればなんとか使いこなせると思います。(解説動画もたくさんあるんですが、見るのに時間がかかる割りに動画1本当たりで入手できる情報量が多くないので、ひととおりの使い方を動画で勉強するのは少しつらいです・・・)

 「結局Inkscapeでは何が出来るのかよくわからない」という場合は、とりあえず「Inkscapeでできること」に目を通すというのはどうでしょう?Inkscape用語ではない言葉でInkscapeの機能を一覧にまとめているので、全体像がもう少し具体的にわかるかもしれません。