Inkscapeには、予想される動きと異なる説明のつかない動きをする場面があります。特に昔のバージョンではそういうことがよくありました。
そういう場面に出くわすと、何が起こったのかすぐに理解できないので、何度も同じ操作を繰り返してみたり、解説コンテンツを検索してみたり、時間を浪費してしまいがちです。
開発に関わっているみなさんのおかげでこうして便利なツールを利用できているので、クレームのようなことを書くべきでもないと思わなくもないですが、ノウハウとして溜めておけば同じことが起こったときに慌てなくて済むかもしれないと期待をしつつ、Inkscapeを使っていて困ったことがあったときに対処方法を思い出せるようにしておこうと思います。
(英語を使いこなせたなら開発者のみなさんに相談できるのかもしれませんが、うーん・・・)
なお「こんな操作をしたいのだけれどどうしたらいいのか?」というノウハウについてはこのページとは別に「定番の操作」のほうにまとめていきます。
- Contents
- 編集操作に関するもの
- 図形を描こうとしたが思った図形にならない
- 新たに追加するオブジェクトのスタイルがコロコロ変わってしまう
- オブジェクトが(フィルもストロークも)見えなくなってしまう
- 「塗りなし」に設定したのに塗りつぶされてしまう
- オブジェクトグループを解除すると元のレイヤでないところに展開されてしまう
- マウスでオブジェクトをクリックしたときの動作が予想できない
- パスをコピー&ペーストした後で選択できない
- 「元に戻す」操作をしても、元に戻らない
- バケツツールで塗りつぶそうとしてもピッタリ塗りつぶせない
- バケツツールで中途半端なところまでしか塗りつぶせない
- 太くしたストロークのところでクリッピングできない
- まっすぐな線を曲がらないように描くのが難しい
- パターンで塗りつぶすと思ったように表示されない
- 画像をトレースしても同じ形にならない
- フィルタをかけた結果が粗い画像になってしまう
- ストロークの角が丸くならない
- オブジェクトの端(境界枠)が妙なところにある
- ファイルの読み書きに関するもの
- 保存することなく異常終了する
- PDFにエクスポートするとオブジェクトが消える
- PDFにエクスポートすると「ぼかし」が粗くなる
- エクスポート先を指定してもPNG画像が保存されない
- ウィンドウ/GUIの動作に関するもの
- 右側のダイアログを思ったように小さくできない
- メインウィンドウが縦に縮まない
- メインウィンドウが横に縮まない
- 新しいファイルを開くたびにウィンドウが増える
- ダイアログが大きすぎてデスクトップからはみ出す
- 環境設定ダイアログが何画面も出てしまう
- スナップインジケータや計測ツールが文字化けしてしまう
- その他の動作に関するもの
- なんだか前と動作が違う・・・
- メニューを操作しても何も起こらない
編集操作に関するもの
(困)図形を描こうとしたが思った図形にならない
Inkscapeの使い方に慣れていないとき、キャンバス上に図形(シェイプ、パス、テキスト)を描こうとしたが、思ったような図形が入力できない、ということがよく起こります。
たいていの場合は操作ミスということではなく、Inkscapeのちょっとクセのある機能に慣れていないからだと思いますが、試行錯誤で何とかなる話でもないので、参考になるかもしれない情報を「Inkscapeでうまく図形が入力できないのだが…」にまとめてみました。
(困)新たに追加するオブジェクトのスタイルがコロコロ変わってしまう
Inkscapeで矩形ツールや星形ツールなどを使って新たにキャンバス上に追加するオブジェクトのスタイル(色など)が追加するたびにコロコロと変わってしまうように感じることがあります。
Inkscapeの新規オブジェクトのスタイルは少しややこしい方法で決定されるので、混乱しやすいです。「オブジェクトのスタイルを設定する」のページの「新規オブジェクト追加時のスタイル」というセクションに詳しくメモしてあるので、ちょっと面倒ですが新規オブジェクトのスタイルがどのようにして決定されるのかを押さえておいたほうがいいと思います。
(困)オブジェクトが(フィルもストロークも)見えなくなってしまう
描いたオブジェクトは確かにそこにあるはずなのに何も見えない(透明人間のようになってしまう)ことがありますが、それはフィルもストロークもどちらも見えない状態になっているからです。例えばフィルもストロークも色を設定していない(すなわち塗りなしを設定している)場合はオブジェクトは見えません。
そして、フィルが見えない理由、ストロークが見えない理由にはいろんな理由があるので、「なぜフィルもストロークも見えないのか?(結果としてオブジェクトが見えないのか?)」は答えが1つではありません。そういう事情が特にInkscape初心者を悩ませてしまうのだと思います。(使い慣れた後でも悩むことがあるほどで・・・)
そのあたりについて詳しく「オブジェクトが見えなくなる理由」にまとめてみました。
(困)「塗りなし」に設定したのに塗りつぶされてしまう

「塗りなし」という属性の意味を誤解していると「無色透明になるはずでは?」と考えてしまいますが・・・ (→ 「塗りなし」の詳細)
(困)オブジェクトグループを解除すると元のレイヤでないところに展開されてしまう
レイヤAとレイヤBのオブジェクトをまとめてグループ化し、しばらくしてグループの解除を行うと、元のレイヤAとレイヤBのオブジェクトになるのかと思いきや、全部レイヤAのオブジェクトになってしまう、という動作をします。
オブジェクトをグループ化するという操作は、あちこち(複数のレイヤなど)にある複数のオブジェクトを集めてきて1つのグループの下に配置するという操作なので、グループを解除するという操作は「元に戻す」ということではなく、そのグループと同じレイヤに展開するものだと理解する必要がありそうです。ZIPファイルのようなアーカイブファイルを展開する操作と似ているかもしれません。
集めてしまってグループ化するのではなく、グループの中から各オブジェクトにリンクを張るだけにしてもらえれば、グループ解除するとすっかり元に戻るのかもしれないですが、リンク切れなども起こりそうなのでどっちもどっちとも思います。
(困)マウスでオブジェクトをクリックしたときの動作が予想できない
回転するモードに変わったり、ノードツールを使った選択状態になったり、オブジェクトグループを選択した状態になったり・・・。一体何が起こるのか予想できなくて使いにくいと感じることがあります。
クリックでオブジェクトを選択するときにInkscapeの中で何が起こっているのかを理解すればそれほど難しい話ではないと思います。(→ クリック操作まとめ)
(困)パスをコピー&ペーストした後で選択できない
ノードツールでパスを編集しているときにいずれかのサブパスをコピー&ペーストすると独立したパスオブジェクトにならずサブパスが1本増えるだけなので、ペースト後に選択ツールで選択しようとしてもそのサブパスだけ選択することはできません。詳しくは「セグメントのコピー&ペースト」を。
(困)「元に戻す」操作をしても、元に戻らない
1回何かの編集操作を実行し、「元に戻す」を操作しても、その編集操作前にすぐ戻らないときがあります。さらに何回か「元に戻す」を操作すると元に戻るときがあります。何か目に見えない操作が裏(?)で復元されているのかもしれないのですが・・・。 おそらく、「元に戻す」を行おうとした編集操作が実は陰では複数の基本操作を組み合わせて作られているので、「元に戻す」1回ではまだ編集操作一体として元に戻りきっていないのだと思います。
(困)バケツツールで塗りつぶそうとしてもピッタリ塗りつぶせない
Inkscapeにはバケツツールというツールがあって、これを使って塗りつぶしたい領域のどこかをクリックすればその領域が一色で塗りつぶされる、と期待するのですが・・・。

実際はその領域の端までピッタリには塗りつぶされません。(→ バケツツールの裏話)
(困)バケツツールで中途半端なところまでしか塗りつぶせない
小さすぎたり大きすぎたりする領域をバケツツールでクリックしても端まで塗りつぶれないことがあります。(→ バケツツールで塗りつぶせない領域)
(困)太くしたストロークのところでクリッピングできない
「フィルとストロークのうちフィルだけがクリッピングに使われている」のではなく、アウトライン(パスの骨格)がクリッピングに使われていると理解すればいいと思います。

そう理解してしまえばストロークの縁はクリッピングに無関係だと自然に分かります。
ストロークのところでクリッピングしたければ、ストロークの端をなぞった形のパスに変換してからクリッピングに使えばよいです。(→ パスに変換する方法)
2つのパスの「差分」を生成する方法や、クリッピングに似ている「マスキング」という機能で同じように切り抜くこともできます。(詳しくは「穴」を描く方法を)
(困)まっすぐな線を曲がらないように描くのが難しい
まっすぐな線を描くのはペンツールを使うのが普通ですが、ペンツールで新規パスを描く際にキャンバス上の操作をドラッグから始めるとまっすぐな線は引きにくいです。クリックから始めればまっすぐな線を引くのは簡単です。(→ ペンツールの操作手順の詳細)
(困)パターンで塗りつぶすと思ったように表示されない
パターンの大きさなどを調整するためのハンドルが表示されなかったり、思ったより大きいパターンで塗りつぶされることがあります。
気になっていたのでいろいろ調べてみました。(→ 塗りつぶしパターンがズレる件)
(困)画像をトレースしても同じ形にならない
ビットマップ画像をインポートしてトレースすればパスオブジェクトに変換できますが、元の画像に描かれている絵図とピッタリ同じ形になりにくいです。
少しだけコツがあるので「ビットマップ画像をベクタデータ化する」を。
(困)フィルタをかけた結果が粗い画像になってしまう
フィルタは、描かれているオブジェクトを一旦ビットマップ画像にして、そのピクセル値に対して各種の演算を行うものなので、ビットマップ画像にしたときのピクセル数が少ないほどフィルタ結果の画像も粗くなります。
小さめのオブジェクトにフィルタを適用すると、フィルタ処理されるピクセル数も少なくなるのでフィルタ結果の画像も粗くなったりするようです。
PDFファイルに保存するときも「ラスタライズ解像度」というパラメータにしたがって生成された画像に対するフィルタ処理が行われるそうなので、この「ラスタライズ解像度」が小さいと保存後の画像が粗くなったりします。(参考:画像ファイルを読み書きする時の解像度)
(困)ストロークの角が丸くならない
ストロークの角に丸形を設定しているのに、特定の角が丸くならないことがあります。ネットで検索する限りではバグ(2023.04現在)のようです。(参考:角の丸結合がうまく表示されない)
(困)オブジェクトの端(境界枠)が妙なところにある
境界枠(バウンディングボックス)は2種類あって、環境設定でどちらを使うかを設定するようになっています。オブジェクトの端(境界枠)が期待する位置にない場合は環境設定で切り替える必要があるかもしれません。(参考:オブジェクトの境界枠(バウンディングボックス)について)
ファイルの読み書きに関するもの
(困)保存することなく異常終了する
Inkscapeはときどき異常終了する(エクステンションを使っているときなど)のですが、たいていの場合編集中のデータを緊急保存するというメッセージとともに自動保存してくれます。ただ、まれにマウスカーソルがクルクル回る状態になってそのまま異常終了してしまい、編集中のデータも消えてしまうことがあります。自動定期保存(いわゆるオートセーブ処理の一種)を設定できるので、ある程度はカバーできますが。
根拠はないのですが、経験的にクリップボードにコピーする操作のとき(特に連続してコピペをしようとしたとき)に起こる傾向があるように思います。
あと、エクステンションを実行すると起こることが多いでしょうか。
(バージョン1.2.1からは異常終了することはほぼ無くなったように思いましたが、バージョン1.3でまた少し異常終了しやすくなったように思われます。)
(困)PDFにエクスポートするとオブジェクトが消える
PDFファイルにエクスポートすると、キャンバス上では描かれていたオブジェクトの一部が消えて無くなってしまうことがあります。バージョン1.3.2(2024.09で最新)でもその症状があることを確認しました。
どうやらバグらしく、ユーザからいくつか報告がされているようです。昔のバージョンからあるバグのようで、消えてしまうオブジェクトも何種類かあるみたいです。例えばクローン(クローンとして生成したオブジェクト)とか。
対策としてはPDFにエクスポートする直前にオブジェクトを全部選択してメニューでパス > オブジェクトをパスへを操作してクローンやテキストオブジェクトも全部パスオブジェクトに変換してからエクスポートするといいらしいです。が、保証されているわけではなくおまじないみたいなものなのでトライする価値はありそうといった程度でしょうか。
機会があれば現状でどうなっているのかを調べてみたいと思います。
(困)PDFにエクスポートすると「ぼかし」が粗くなる
PDFに保存するときに「ぼかし」フィルタに入力される画像の解像度が低い場合はそうなるようです。詳しくは「PDFに保存するとぼかしが粗くなることについて」を。
(困)エクスポート先を指定してもPNG画像が保存されない
PNG画像にエクスポートダイアログ上でエクスポート先ボタンを押してすでに存在するファイルを選択すると「上書きしますか?」と聞かれ、置換ボタンを押すことができます。当然流れ的にファイルは上書きされていると思いがちですが、上書きされません。そのあと、すぐ左となりの「エクスポート」ボタンを押して初めて上書き保存されます。(→この動作は、バージョン1.2でエクスポート先をファイルパスのみで指定するようになったので、無くなりました)
ウィンドウ/GUIの動作に関するもの
(困)右側のダイアログを思ったように小さくできない
(困)メインウィンドウが縦に縮まない
(困)メインウィンドウが横に縮まない
Inkscapeの画面が思ったように小さく縮められないことについては「Inkscapeの画面が大きすぎるのだが…」のほうにまとめました。
(困)新しいファイルを開くたびにウィンドウが増える
あるドキュメントを編集し終わって保存し、別のファイルを読み込むとき、同じウィンドウの上で読み込めず、必ず新しいウィンドウが開いてしまうように思われます。前のウィンドウを先に閉じるとInkscape自体が終了してしまうので、新しいウィンドウで次のファイルを読み込んで表示させてから、前のウィンドウを閉じるという少し面倒なことを毎回やってます。環境設定などでこの動作を変更できるか探してみましたが、見つかりませんでした。
(困)ダイアログが大きすぎてデスクトップからはみ出す
おそらくエクステンションに特有の動作だと思いますが、パラメータ指定用のダイアログが大きすぎて(かつサイズ変更もできないので)デスクトップからはみ出してしまい、思うように操作できない場面があります。
キーボードでダイアログを移動すれば何とかなるかと思ったのですが、それでもうまくいきません。
Inkscapeの環境設定にフォントの大きさを設定できるところがありますが、これは一部のダイアログに効果がないようです。
そこで、そういうダイアログが表示された場合はダイアログ全体をスクリーンキャプチャしてそれを見ながら、タブキーでのフォーカス移動やスペースキーでのチェックボックスのオンオフなどで対処しています。
(困)環境設定ダイアログが何画面も出てしまう
環境設定ダイアログは、ドキュメントごとではないInkscape全体として共通の設定を行うダイアログなので、いろんな操作手順で表示することができますが、表示させる操作(例えばクリックとか)をしても表示されるまでに時間がかかります。それでうっかり何回もクリックしてしまったりすると、一度にたくさんの環境設定ダイアログが表示されてしまいます。いわゆる「モーダル」になってないんですね。(→バージョン1.2で修正されたようです。)
(困)スナップインジケータや計測ツールが文字化けしてしまう
スナップ機能を使うと、ドラッグ中のノードを特定の位置に吸い寄せることができますが、その特定の位置(吸い寄せられた先)がどんな種類の場所なのか(他のノードなのか、ガイドラインなのか、など)を示す小さいメッセージ(例えば「シャープノード→パス」のようなメッセージ)がノードのそばに表示されます。(詳しくは「スナップ機能(ドラッグ時の位置合わせ)」)
ところがこの小さいメッセージ(スナップインジケータと呼ばれることもあるようです)が日本語表示では文字化けして「□」が並んだだけになってしまうことがあります。「□」の文字が「豆腐」に見える(?)ことから、開発関係者の間でも「tofu問題」として認識されているようです。

これではいくつもスナップ先の候補がある状況で、どこにスナップされているのかが分からないので困ります。どうもこの小さいメッセージを表示するときのフォントとして日本語の文字を含まないフォントが指定されているという問題らしいのですが、環境設定などで修正できるようにもなってません。
そこでどうしてもスナップ先が何になっているのかを知りたい場合は、環境設定で言語の設定を「英語」に設定してからInkscapeを一旦終了し、起動し直します。

すると当然スナップのメッセージ以外のメニューラベルなども英語表示に切り替わってしまいますが、スナップのメッセージは読み取れるようになります。

スナップ先がどこになっているのかをどうしても知りたい場合はこのようにして一時的に英語表示に切り替えてみてもいいかもしれません。
計測ツール(ものさしツール)を使ったときの計測結果の表示でも、日本語ラベルが同じように文字化けします。
この動作は、メッセージを表示するために使うフォントのフォント名(”sans-serif")がソースコードの中に固定的に記述されていて、その名前のフォントとして日本語に対応しているフォントを取得するのに失敗しているのが原因らしいです。この辺りの事情については、開発関係者の間でいろいろ議論されているようですが、話がややこしくてよく分かってません。他力本願ですが、修正されるのを気長に待とうと思ってます。
その他の動作に関するもの
(困)なんだか前と動作が違う・・・
Inkscapeを使っていると、いつの間にか以前と違う動作をしていることに気づくことがあります。バージョンアップしたときに、リリースノートで書ききれていない小さな変化があるんじゃないかなと想像しています。そんなときは、環境設定ダイアログのシステムタブにある環境設定を初期化ボタンを押してみてもいいかもしれません。そうすると、Inkscapeのインストール時の環境設定に戻るのですが、気になる動きはこれで解消することが多いように思います。バージョンアップした場合、多くの環境設定パラメータがバージョンアップ前のものから引き継がれますが、その古いパラメータが新しい機能とかみあわないせいで思わぬ動作をすることがあるようなのです。
(困)メニューを操作しても何も起こらない
メニューを選択しても何も起こらないことがあります。たいていは、そのメニューが機能する条件が満たされていない場合(例えばオブジェクトが1つも選択されていない状態の削除メニュー)なので、メニューを選択しても何も起こりません。典型的なデザインのGUIでは、もし選択したとしても機能し得ないメニューについては選択不可(グレーアウトなど)になるようにしていると思いますが、Inkscapeでは、例えば1つもオブジェクトを選択していない状態でも、削除メニューが操作できます。でも何も起こりません。そんなときは、ステータスバーをよく見ると「何も削除されませんでした」のような表示がされていて、何も起こらなかったことがわかる場合もあります。